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「やっぱりそうでしたか...目元が慶太君によく似ている......すぐにピンときましたよ。あ......私は慶太君の古い友人で、高瀬信彦(たかせのぶひこ)と申します」 高瀬はそう言うと、ポケットから名刺入れを取り出し、 二人に一枚ずつ渡した。 「古いご友人という事は、もしかしたら長谷川さんをこちらへ呼び寄せたご本人でいらっしゃいますか?」 陸がそう質問をすると、高瀬は言った。 「はい......私と慶太君は大学時代の同期生でしてね...当時、慶太君は東京で、そして私は北海道でリゾート開発の仕事に携わっておりました。同じ業種でしたから、大学卒業後も頻繁にやり取りをして、時には仕事をご一緒させていただく事もございました」 高瀬はそう言うとニッコリと笑い、続けた。 「あの頃は、持ち直しかけていた日本の景気が減速し、一気に不景気の波が押し寄せました。私は会社をたたんで、父がやっていたホテルの経営を引き継いだので、特に大きな影響は受けなかったのですが、慶太君は頑張っていたのに大打撃を受けましてね...それで、良かったらこっちへ来ないかと誘ったんです」 高瀬は穏やかな表情で言った。 「そうだったんですね...」 華子が呟いた。 「あの時、私がこっちへ来いって誘わなければ、もしかしたら慶太君は離婚をせずに済んだんじゃないかって、ずっと後悔しておりました。とても可愛がっておられた娘さんと会う事を禁止されたと言って、かなり落ち込んでいましたからね。会えないあなたの事を、ずっと思い続けている彼を見るのは、正直辛かったです......」 高瀬は華子に向かって微笑んだ。 「お父さんが....?」 「ええ、そうですよ。あなた位の年齢のお客様がいらっしゃったり、テレビで若い女性が映ったりすると、華子は小さい時可愛かったから、きっと今頃は美人になっているだろうなぁなんて、よく呟いていましたからね。でも、彼の想像は見事に当たっていましたね」 高瀬はそう言って、優しく華子に微笑んだ。
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