25

7/16
前へ
/348ページ
次へ
「今日はお前に会いたいって言う人を連れて来たんだ」 「俺に?」 慶太が不思議そうな声で言った。 「どうぞ...」 高瀬はそう言って、華子にベッドの傍に来るよう促した。 華子は震える足で、一歩ずつ前へ進んで行く。 父はどんな顔をするだろうか? 父は一体なんと言うだろうか? 華子の目には、既に涙が浮かんでいた。 そしてその表情は、かすかに緊張で強張っている。 慶太は不思議そうな顔をして、近づいて来る人物を見上げた。 そして、その瞳が華子の瞳を捉えた時、 慶太はみるみる驚きの表情へと変わっていった。 「華子かい.......?」 「お父さん......?」 「本当に華子なんだね......いやぁ驚いたなぁ......いつの間にかこんなに大きくなって...もうすっかり大人のレディじゃないか...」 その言葉を聞いた途端、華子の目から涙がこぼれ落ちた。 「お父さん.......お父さん...お父さん......」 華子はそう言うと、ベッドに座っていた慶太の肩に顔をつけて、大声で泣き出した。 そんな華子の背中を、慶太が優しく手でとんとんと叩く。 華子は泣きじゃくりながら、背中を叩く父の優しい手の感触が、遠い昔のあの頃の記憶を呼び戻すような......そんな気がしていた。 陸と高瀬は微笑みながら目くばせをすると、 二人を残してそっと病室を後にした。
/348ページ

最初のコメントを投稿しよう!

3686人が本棚に入れています
本棚に追加