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真冬の嵐
風の強いその日、西沢時計店に見慣れない客がやってきた。
県内でも、指折りの進学校の、制服を着た女子高生。
彼女は、古いアーモンド型の腕時計を、持ってやってきた。
「時計の修理をお願いできますか?」
「はい、勿論です。こちらへどうぞ」
カフェスペースのカウンターではなく、店の奥にある、ソファーを勧めた。
修理依頼の用紙へ、記入ができるように、ボールペンを用意する。
失礼の無いように、白い新しい手袋をしてから、時計を受け取った。
時計を裏返してみたが、メーカーのマークや名前、シリアルナンバーは、入っていなかった。
個人店のオリジナルのようだった。
「母の宝石箱に、入っていて、長い間使われていなかったのですが…」
女子高生は遠慮がちに、話し出した。
「…じっくり見させていただいて、直せるかどうかと、費用がいくらかかるかお知らせしますので、
お名前と、連絡先をその用紙に記入してください」
女子高生は、頷くと、用紙に名前、住所を書いた。
彼女の名前は、足羽川しおり。
電車で、五駅ほど先に住んでいる様だ。
「電話番号は携帯でもいいですか」
「はい、結構ですよ」
足羽川という珍しいが、どこかで聞いたような苗字に、少し嫌な予感がした。
「では、お願いします」と言って、しおりは、頭を下げて帰っていった。
店が終わって【close】の看板を掛けると、さっき預かった、アーモンド型の時計を取り出した。
そっと、手を当ててみる…
圭佑の記憶にあるより、少々、年は取っていたが、見違えるはずがない。
圭佑の母、みずえの顔が見えた。
視界が光こと、ぎゅっとつかまれてねじれた。
回転しながら、吸い取られていく、すごい力で押しつぶされるようだった。
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