アーモンド形の時計

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アーモンド形の時計

しおりは最近、パスポートをとるという友達と一緒に、戸籍を取り寄せた。 軽い気持ちで、何も考えずにした行動だった。  そこに書いてあったのは、自分が父の養女であるという、思いもしない事実だった。  調べられることは、全て調べた。 すると母の苗字が「足羽川(あしわがわ)」になる前「西沢(にしざわ)」だったことがわかった。  母に、真実を、問いただす勇気が出なかった。 ただ、鬱々と過ごす日々。  ある日、しおりが母の様子を、うかがっていると、パソコンをみていた、母の顔色がすっと変わった。  頬に赤みがさし、ぎゅっとなにかをこらえているように、目を閉じた、微かに肩が震えていた。  しばらくすると、落ち着いたのか、自分の頬をなでてから、立ち上がり、いつもの家の仕事に戻った。  母がいなくなってから、パソコンを見ると、隣町の町役場のホームページにつながった。  そのコーナーの1つに『西沢時計店』が特集されていた 俳優のようなイケメンの店主が、さわやかな笑顔で写っていた。  『時計』で1つ思い当たることがある。 以前母の宝石箱に中に、アーモンド型の腕時計を見つけて、それを取り出した事があった。  華奢な作りのその時計は、まるでおとぎ話のお姫様の持ち物のように、素敵に見えた。  しおりは、自分の腕にはめて、しげしげと眺めていた。  すぐに、母に見つかって、とても怒られた。  あの時計、母にとって特別なものなのだろう。 思い当たる物は、その時計ただ一つだ。 それしか、手掛かりはない。  心の中の、もやもやが、体中を黒く染めていくようにで、キリキリとした焦りが広がる、確かめずにはいられない。  その時計をこっそり持ち出し、ホームページでみた住所を頼りに、『西沢時計店』に向かった。
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