アーモンド形の時計

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 いざ、店の前に立ちと、どうしていいのかわからない。 しおりは、暫く、店のドアを眺めたまま、立ち尽くしていた。 風が冷たい日で、マフラーに顔をうずめても、鼻の先が凍り付く様に妻たくなった。  母の過去を知って、どうしようというのか。 ここに、本当に何かがあるのか。  でも、このままでは、何も手につかない。 受験生だというのに、勉強にさえ集中できないのだ。  しおりは口を挽き結び、意を決した。 店のドアを開けると、軽やかにベルが鳴った。  俳優のようなその人は、ちゃんとその店にいた。 何を、聞いてよいものやら分からず、とりあえず、時計の修理を頼んだ。   家に帰りつくと、どっと疲れた、制服のままベットに寝転んだ。  何をしに行ったのだろう、自分でもよくわからない、 ただ、あの人に会ってみたかっただけかもしれない。  自分より、十程年上のその人と、母の関係…。 言い知れぬ不安が、腹の底から沸き上がり、腸を満たし、食道を這い上がり、胃をいっぱいにして、肺を詰まらせる。  喉からあふれ出てしまいそうだ、おぼれてしまう。 叫び出してしまいそうだ。  スマホをもって家をこっそり抜け出した、近くの、小高い丘の上にある公園まで、やってきた。  公園から、遠くの町の明りが見えた、ずっと向こうにスキー場のライトがみえた、光の道のようだった。 「助けてーーー」 叫んだ声は闇に吸い込まれた しおりは、その場にうずくまった。
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