アーモンド形の時計

3/3
前へ
/26ページ
次へ
「そうかい」 西沢時計店のカウンターで、三和子が静かにそう言った。  三和子の前には、あのアーモンド型の時計が置かれていた、時計に触って見えたことを、圭佑は三和子に話した。 「まず、間違いなく、みずえさんの物だろう… その娘こも、みずえさんの娘だろう…… 」 三和子は、首を振って、こめかみを押えた。 「こんなに近くにいたんだね…」 「…はい」 「圭佑、どうするんだい」 三和子は、たまらずにそう言ってしまった、圭佑に問いただしても、答えを求めているわけでは無かった。 「…彼女は知っているのでしょうか、知らないのなら…… 俺は何も言わずに、時計を彼女に返そうと思っています」 「そうだね、その力がなければ、 気が付かずに終わっていたことかもしれないからね」 圭佑は自分の手をじっと見ていた 「この力の事、真言君に話しました」  圭佑の告白に、三和子は立ち上がりかけて、慌てて机に手を付いたが、思い直して、椅子にグッと座り直した。 「…それで、何か言ったかい?」 「いいえ、黙って聞いてくれました」 「おや、私の見立てより、いい男だったね」 三和子には、心底意外だったようで、キョトンとしていた。 「真言君のこと、どう思ってたんですか?」 三和子の反応に、真言のことが少し可哀そうになって、圭佑はため息交じりいそう言った。 「どんくさい子」 三和子には容赦がない 「圭佑、もし…あの時の事が知りたかったら、 私に訊いておくれ、聞きかじりの情報じゃなくて よく知っている私にね…大人としてきちんと話すよ」 三和子の言った『あの時』とは、みずえが、圭佑を置いて、街を出て行った日の事だ。 「はい、もう少し落ち着いたら訊きにいきます」 圭佑は、三和子をしっかりと見つめて、そう言った。 「そうかい…じゃあ、久ぶりに腕を振るって、 圭佑の好物でもつくろうかね」 三和子の言葉に、圭佑は緊張していた表情を崩した。 「…ちょっと、楽しみになりました」 圭佑がそう言うと、三和子笑って、はおいしそうにコーヒーを飲んだ。 
/26ページ

最初のコメントを投稿しよう!

54人が本棚に入れています
本棚に追加