サイフォンコーヒー

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 圭佑は、コーヒーミルに豆を入れると、ミルを真言に手渡した。 真言は、楽しそうにハンドルをまわした。 「意外と、力いるんすね」 「そうなんだよ、コーヒー豆って、硬いからね」  店ではドリップ式で入れるが、今日はサイフォン式で入れることにした。 下のコーヒーサーバーに水を入れて、アルコールランプ型のヒーターの上に乗せる。 サーバーの水が沸騰したところで、上部のフロートに、今引いた豆をいれて サーバーに差し込む。 沸騰した湯が、フロートの中をのぼっていく。 その様子を真言は子供のように見ていた 「理科の実験みたい」 「こうゆうの好きじゃない?」 真言は無邪気に頷いた。  湯がほとんどフロートに入ったところで、木のヘラでゆっくりとかきまぜる。 少し時間を、おいてから、ヒーターを外す。 徐々にフロートから、サーバーへコーヒーが移動した、すべて落ちたところで、フロートを外す。  サーバーからカップに注ぐと、真言にわたす。 「いい香り、ありがとう」 真言は嬉しそうにそれを飲んだ。 「ねぇ、真言君。今日はもう…」 圭佑が言いかけると、それを遮るよに、真言が話し始めた 「ごめんなさい…俺、知らなくて…… 圭佑さんがつらいんじゃないかって思うの…… 自分がつらいより、もっと痛いんだって、わかってなかった、子供ですね…… でも、一緒に居させてください」 真言は、自分の顔を両手で数回パンパンたたくと、時計を持って、ソファに座った。 「でも…」 何か言いたげな圭佑に、自分の隣をポンポンたたいて、座るように促した。  圭佑は、そろそろと真言の隣に座ると、真言の顔を覗き込んだ 「終わったら、おいしいもの食べようね」 圭佑の言葉に、真言は笑顔で頷いた。 「ちゃんと、見えたものいってくださいね」 「うん、わかった」 さっきと同じように、真言の手のひらにのった時計に、圭佑がそっと触った。 「女の子が…小さな女の子、お母さんに怒られて、へこんでる。 箱から、時計を取り出したみたい……。 女の子が小さくなった、よちよち歩きだ、 母さんがないてる… 俺だ、小さい俺、柱時計の前、…… 駅だ」 圭佑は、熱さに驚いた時のように、時計からパッと手を離した。 「圭佑さん…」 「俺だ、俺だった。 俺が、ここにいること選んだんだ」 「え? 音はきこえないんじゃあ…」 「うん、でも思い出した、あの時の母さんの顔」  圭佑はソファから勢いよく立ち上がった 「真言君の手、温かいね、安心できたよありがとう」  真言はじっと自分の手をみた、ふと気が付いて顔を上げ、圭佑を見上げた。 「あれ? こうやって見えるなら、俺の時計は?」  圭佑は、しまったという顔をして、手のひらをひらひらとふった。 「ご飯にしよう」 「え?ちょっと、圭佑さん!!」 真言はあわてて、圭佑の後を追った。
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