決着の時

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決着の時

 数日後、しおりに西沢時計店から、連絡があった。 時計は、オーバーホールすれば、問題なく使えるが、古い時計なのでオーバーホールには、数万円かかる可能性がある…… とのことだった。 「わかりました、少し考えます」 「はい、連絡お待ちしています」  しおりは電話を切ると、制服の赤いリボンを、ぎゅっと握った。 そうしないと、体から、心が抜け出して、どこかへ行ってしまいそうだった。  しおりの知らない真実が、そこに横たわっている。 もう、目を瞑ることも、避けて通ることもできない。 知りたいのだ、自分が生まれたわけを。  気づけば、西沢時計店の前に来ていた、暫く悩んだ後、意を決して、扉をに一歩使づいた。  そっと、店の中の様子を覗くと、店の中には、カメラを持った男が1人、カウンターに座っていた、店主は、その客と楽しそうに、何か話してた。  しおりは、扉を開くことが出来なくて、じっと立ち止まっていた。  何かを感じた、圭佑はしおりを見つけて扉を開けた 「足羽川様、時計を取りにいらしたんですか?」 「…はい」  圭佑はしおりを中に招き入れると、白い手袋をはめてから、大事そうに 時計をとりだした。  「オーバーホールは結構お金がかかりますからね、学生のには、負担が大きいと思います…… 」 「……はい、母の大切なものを勝手に持ち出したので…… 」 「そうですね、お母様に相談してからの方が、よろしいかと思います」  しおりは、黙ってうつむいて、両手を白くなるほど握りしめた 「お母様と何かありましたか?」 しおりの様子が気に成って、圭佑は小さな声で、話しかけた。 「西沢さん、失礼なことを言います。 私の母は、足羽川みずえといいます、 以前は、西沢でした、西沢みずえ、知らないですか? 知ってますよね、西沢みずえ 貴方と同じ西沢です」  圭佑は困って、視線を泳がせた 「いいえ…」 小さく絞り出した声は、しおりには聞こえなかった。  「私、パスポートをとるために、自分の戸籍をみたんです。 私、父の養女でした。 母はちがう人の子供として、私を産んでた 西沢って人です、このお店と同じ『西沢』 母が、町のホームページに乗っている貴方の記事を見て、泣いていたんです、 あんな母見たことなかった! 貴方なら何かしっているんじゃないですか? 私!…」 荒ぶるような剣幕で話し続けるしおりの、呼吸のタイミングで、圭佑はやっと、口をはさんだ。 「…お母様に、お聞きになった方が…」 「できないの!どうしてもできなかった!」 しおりは叫んでいた、声の音量の調節方法を、忘れてしまったようだ。 こらえきれない涙が落ちた。 涙のせいで、喉が詰まって声が出なかった、うまく話せない自分が悔しかった。 もっと、うまく話さなければ 伝わらないのに…もっと…。  圭佑は、静かに目を伏せた、少し考えてから、顔を上げた。 「少し待ってもらえますか、知っている人に聞いてみます」  圭佑は、みせの看板を【close】にひっくり返し、 それから、どこかに電話をかけた。  
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