48人が本棚に入れています
本棚に追加
/26ページ
恋人始めます
真言はうつむいたままの、圭佑の頭を抱きしめた
「頑張りました」
せめて、精一杯の心を込めて、少しでも圭佑が癒されるように。
圭佑も、されるがままに任せていた。
「俺は、何もしてないよ…」
圭佑は、ポツリと話し出した、何か吐き出さないと、いっぱいになった気持ちに、押しつぶされそうだった。
「しおりさん、うまくいくといいね」
「そうですね」
真言は、圭佑の頭を、ギュッと抱きしめ直した。
「…しおりさん、可愛かったね」
「素直な人でした」
しおりより、圭佑の方が百倍可愛らしいと思いながら、そう返す。
「…… 妹なのかな」
「妹、ほしいですか?」
しおりの事ばかり話す圭佑に、少し、嫉妬した。
「ほしい? いや、どうかな…」
「…… 妹より
、恋人はいりませんか?
まず、俺を恋人にするのはどうですか? 」
圭佑はようやく顔を上げて真言を見た
「俺でいいの?」
真言は、圭佑を見降ろしながら、苦笑する…… 圭佑の目をじっと見つめる
「圭佑さんがいいんです、俺の恋人になってください」
その声が、静かな空間に、圭佑の心に波紋が広がるように響いた、いっぱいになっていた心の中を優しくなでた。
「うん、…… いいよ」
真言の顔を見ているだけで、鼻の奥がつんとして、涙があふれそうになった
「いいの?本当に?」
真言に、しっぽがあったら、ぶんぶん振っているだろう、嬉しくてしょうがないといった顔で、聞き返された。
圭佑は、小さく頷いた。
二人は自然に、磁石がひかれ合うように、キスをした。
ぎこちない、初々しいキスに、笑いがこぼれる、おでこをくっつけて笑いあう。
「好きです、圭佑さん」
「うん、俺も」
真言は、一度ぎゅっと圭佑を抱きしめると、パッと手を離した。
キョトンとした圭佑が、真言を見た。
「帰ります」
真言は、そっぽを向いて早口で言った
「今日は、もう舞い上がって、何しでかすかわからないので、帰ります。
今、弱ってる圭佑さんに、つけこみそうだから、帰ります」
真言は、扉まで大股で歩くと、ドアノブに手をかけて、圭佑に振り返った。
「でも、恋人になってくれるって、言った言葉は、とり消せませんからね」
念を押すと、真言は勢いよく、扉を開けて店を出て行った。
圭佑はあっけにとられて、閉じた扉を見つめた。
「…つけこんでも、いいんだけどなぁ」
小さな声で言ったはずの、その独り言が、店に響いた。
最初のコメントを投稿しよう!