赤い胸のツバメ

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 写真館のロビーにある、来客用のソファーで、寝袋にくるまって、寝ていた真言は、カーテンの無い窓から、朝日がさしこんできて、目が覚めた。  目をこすりながら、外を見ると、朝早いパン屋が、もう店を開けていた、 パン屋の、ドアを開けて圭佑が出てきたのが見えた。 その笑顔が眩しかった。 目を細めて彼を眺める。  真言は、はめたままだった腕時計を見た。 西沢圭佑(にしざわけいすけ)は憶えているだろうか、自分と、この時計の事。  真言は、左手の人差し指と、親指を、口の両端にあてた。 これは真言の癖で、よくやってしまう。 「圭佑さん…」 自分もそう呼ぼう。 声に出して呼ぶと胸が熱くなった。    数日後、青年団は、居酒屋『福屋(ふくや)』で、かおりと真言の歓迎会を開いてくれた。 消防士の元宮央生、奥田巧(おくだたくみ) ウエディングプランナーの千野杏里(せんのあんり) 絵本作家の岩村透(いわむらとおる) 革製品作家の松久京子(まつひさきょうこ) まだ、青年団には入っていないが、陶芸家の深見涼太(ふかみりょうた) そして、町役場の広報課 吉川百笑(よしかわもえ) などが、集まっていた 歓迎会というより、ただ集まって飲みたいだけかもしれない…  かおりも真言も地元ということもあり 地元で盛り上がっていた 「真言君は、ツバメみたいだよね」 「ツバメですか?」 岩村が、程よい酔っ払いになって真言に話しかけた 「そう、幸福の王子のツバメ、胸が赤くて、自由に飛んでいける でも…人の言葉は話せない」 岩村は意味深に言葉をきった グラスを開けると、お代わりを注文した 「王子は優しく、慈悲深いが、 自分をかえりみない、傷つき、 みすぼらしくなっても…… だ!ツバメよ」 岩村は芝居がかって、右手を上げると、真言を指さした 「おっ俺?」 「ツバメよ、言葉を尽くせ迷って飲み込んでいる場合ではない 真実(しんじつ)を話せ、心を開放するのだ。 君が今ここに居ることに意味がある、 君しかできない」 そして、酔いが回ったのか、ガクンと寝てしまった 「え!ちょっと岩村さん、大丈夫ですか?」 真言は、慌てて立ち上がり、岩村を抱き起した。
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