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「真言君!」
あわてて駆け寄ってきた圭佑に、左腕をつかまれて、川から引き揚げられた。
時計の梱包用に、いつも車に積んである毛布で、ぐるぐる巻きにされて、車に乗せられた。
「大丈夫?なんであんなところに落ちたの?
真言君の家、お風呂無いって言ってたよね
とりあえずウチに来て」
「…… すみません、お仕事大丈夫ですか? 」
「いや、それは全然…… むしろ、助かったよ」
圭佑は、鼻の頭をすこしかいた。
圭佑のマンションは、商店街から少し離れたところにあった。
祖父から受け継いだもので、古い建物だがよく手入れされていた。
玄関を開けて、右手側にバスルームがある
「シャワー浴びながら、お湯ためて、濡れた服は、そのまま洗濯機に入れておいて、すぐ洗ってしまうから」
圭佑は、指をさして説明しながら、浴槽に湯をためると、
真言をバスルームにおいて、向かいの部屋に入っていった。
その後ろ姿を見送りながら、つい辺りをぐるっと、見渡してしまう
きちんと、整頓されている、バスルームと洗面台。
歯ブラシは1つ…。
「真言君、まだ入ってないの?風邪ひくよ」
いつの間にか、戻ってきた圭佑は、真言に着替えとバスタオルを渡すと、扉を閉めて出て行った。
真言は、くしゃみを1つすると、体を震わせた
「さむ…… 」
頭からシャワーを浴びながら、先ほどの光景を思い出す
綺麗な人だったな…
お湯のたまったバスタブに、とっぷりとつかる、引き揚げてもらった左手に、圭佑の感覚がまだ残っていた。
考えがまとまらない…湯の中にぶくぶくと沈む。
風呂から上がり、借りたスェットに着替える。
カメラと、さっき外しておいた腕時計をもって、バスルームを出る
部屋の奥から、圭佑の声がした
「真言君、こっちだよ」
声のした方に、歩く。
招かれた部屋が、リビングだった。
「着替えまで借りてしまってすみません」
「どういたしまして。
コーヒーいれたから座って」
真言は案内されたソファーに座った。
「カメラ大丈夫だった?」
「はいなんとか」
「よかった。真言君、腕時計をしてたよね」
真言は、持っていた時計をわたした。
圭佑はその時計を受け取り、ローテーブルに置いた。
「タグ・ホイヤーだね、俺も昔同じの使ってたよ」
圭佑は嬉しそうに、時計をながめていた。
真言は、自分の口を左手で抑えた、いつもの癖だ。
少し考えてから左手を下すと、まっすくに圭佑を見た
「それ、圭佑さんの時計です」
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