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めんせつ、めんせつ。
これは、私がまだ花の女子高校生をやっていた頃のことだ。
今思うと黒歴史だの若気の至りだのでしょっぱい気持ちなるが聞いて欲しい。未だにこの件は、思い出すたび背筋が寒くなるのだ。
当時は丁度、AKB48などの多人数の女の子アイドル絶頂期だった。
制服っぽい可愛いチェックスカートや、ひらひらのワンピースを着て踊る可愛らしい女の子たち。愛らしい歌、華やかな衣装、キラキラした化粧。そういうものに憧れて、自分もやってみたいと思っていた女の子は少なくなかったことだろう。
アイドルになりたい。
アイドルになってスポットライトを浴びて輝きたい。みんなにちやほやされてみたい。
とはいえ、両親に“アイドルやりたい”なんて言ったらまず反対されるに決まっている。親の多くは“真っ当な四年生大学に入って、真っ当な大企業に勤めて、いずれ真っ当な男を見つけて結婚するのが最良の人生だ”と思っているのが透けているから尚更に。令和の親ともなれば多少考え方も変わってくるかもしれないが、少なくとも私の両親はそんなガチガチタイプなのが明白だった。
ゆえに私が何を考えたかといえば、“じゃあこっそり応募して合格してしまえ”ということ。
応募の段階で相談すれば、止められるのは目に見えている。
アイドルは大変なんだぞ、とか。そんな甘い世界じゃないんだぞ、とか。お前なんかが選ばれるわけないんだぞ、みたいなことを散々言われて、最終的には“どうせ食っていけないんだから応募もするな”で終わるのがオチだ。
ならばこっそり応募して合格してしまえばいい。合格通知を突き付けて、自分がプロに認められたことを見せつけてやれば親だって納得すると、そう考えたのである。
――普通に大学いって、つまんねー会社勤めとかしたって人生楽しくないし!絶対アイドルになってやるんだから!
ゆえに私は、とにかく大手から小規模なところまで、あっちこっちの事務所のオーディションに応募したのである。――残念ながらけして現実は甘くなく、ほとんどのところが書類審査で落ちてばっかりだったのだが。
まあ、今考えると“そりゃそうだよな”としか。
私はけして美人ではなかったし、ちょっとぽっちゃり系だったし、ダンスレッスンなんて受けたことさえなかった。歌だって、カラオケでそこそこの点が出せるレベルで正直上手いと言えるほどじゃない(当時は歌だけは自信があるつもりだったのが痛々しいが)。なんの武器もない、経歴もない。万単位で応募してくるオーディションで、それでどうして通るだなんて思えたのやら。
そう、散々応募しまくって、書類審査が通ったのは一社のみだったのである。
「よ、よっしゃああああああああああああ!」
書類を送ったところから、直々に来たメールを見た時、私は思わず声を上げたのである。
『是非あなたにお会いしたいです。面接をしたいので、空いている日程を教えていただけますか?』
大体こんなかんじの内容。
私は意気込んで、その週の土曜日の午後に予約を取ったのだった。
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