めんせつ、めんせつ。

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 ***  再三言うが。  当時、私は高校生である。面接なんて、高校受験の時に一回やったっきりだ(でもって公立受験の時しか面接はなかった)。  大学生になって就職活動でもするようになれば嫌になるほど面接を経験するだろうが、少なくともこの時は殆ど体験したことはなかったのである。正直、ものすごく緊張していた。ひょっとしたら実技をやれと言われるかもしれない。ここで失敗したら、夢のアイドルロードが台無しになると思ったのである。 ――おかしな質問とか、予想外の質問いっぱいされるかも。が、が、がんばらなきゃ!  スーツなんてものは持っていないので制服で面接会場に向かった。会社の名前は覚えていないが、ものすごく変わった名前で“これ何語なんだろ?”と思ったのは記憶している。  人生の、まさに分水嶺と言っても過言ではない。  おかしな質問をされても落ち着いて答えられるように、そして自分をアピールできるようにと、こっそり何度も練習を繰り返して臨んだのだった。同時に。  万に一つ失敗したら、次に生かせるように――本当はいけないことなのかもしれないと思いつつ、ポケットにスマホを忍ばせて録音することにしたのである。恐らく面接中は緊張して頭が真っ白になり、質問されたことを後で思い出すのが困難だろうと思ったからだ。己の受け答えがどれくらいうまくいっているかどうかも、録音さえしておけば後で確認できるだろう、と。 「し、し、失礼します!」  ノックをして、入室。ひっくり返った声を上げ、汗でべとべとの手でドアを閉め、挨拶をする。  そして勧められた椅子に座った。――面接官は、三人。私は眉をひそめたのだった。  席に座っていた面接官たちは、恐らく男性が二人で女性が一人、全員が黒いスーツを着ていたのだが――何故か、三人ともニコニコマークみたいな仮面を顔に装着していたためである。顔半分ではなく、全体を覆う仮面だ。三人のうち二人が男性で一人が女性というのは、あくまで髪型と肩幅などでの判断であった。 「それでは、面接を始めます。まず、お名前と年齢、志望動機をどうぞ」 「は、はい……」  どうして仮面なんかつけて面接をするのだろう?そう思ったが、私は黙っていた。何か事情があるのかもしれないし、この会社のポリシーのようなものなのかもしれない。三人とも仮面姿ならば、顔に傷があって隠したいとか、そういうことではないだろうが。  そもそも、自分が話すことだけで精一杯で、人のことを気にしている余裕もなかったというのが正しい。私はものすごいアガリ症だった。はっきり言って答えの一部は声が裏返りすぎて、ほとんど聞き取れなかったのではないかと心配するほどだ。 ――落ち着け落ち着け落ち着け落ち着け落ち着け私!い、い、息吸ってええ、ふ、深く吐いてええええ!  心の中で言い聞かせ続けていると、次第に少しだけ余裕ができてきた。同時に、さっきから質問される内容が変だということにも気づき始めたのである。  最初は志望動機とか、あこがれのアイドルは誰なのだとか、他に受けた事務所はあるのかとかそんなありがちな質問だったのだが。次第に、少し意図が不明瞭なものが混じり始めたのである。  例えば。 「塚本麻也(つかもとまや)さん。貴女には、首から上になんらかの疾患はありますか?」 「え?首から上?」
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