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北野秀太は妻の優花と並び、野々神社の境内で手を合わせていた。
娘の摩耶が幼い頃、彼女に向かって神様にお願いごとばかりするのは欲張りだと言ったことを思い出したが、今の秀太は神様にお願いごとばかりしている。
全ての願い事を心の中で呟いてから顔を上げた。横を見ると優花が秀太に顔を向けていた。
「長い時間、何をお願いしてたんですか」
優花が笑みを浮かべて秀太に訊いた。
「いろんなことを山ほどお願いした。ほとんどが麻耶のことだけどな。優花は?」
「わたしもあなたと同じです。今日まで麻耶が元気で幸せに過ごせたことのお礼と明日からの麻耶の結婚生活が今まで以上に幸せになるようにお願いしました」
「俺も同じだな。麻耶には幸せになってほしい。南野くんと麻耶はこれから先も幸せに過ごせるかな」
「きっと、幸せに過ごせます」
「それならいいんだけど」
「親バカかもしれませんけど、麻耶は優しくて愛情豊かな子ですから、これからもきっと幸せになれます」
「確かに、優しい子だ。きっと南野くんとうまくやっていくよな」
「麻耶はあなたからたくさん愛情をもらいましたから、優しい子に育ったんです。あなたのおかげです」
「俺じゃなくて君のおかげだ」
「じゃあ、わたしとあなた二人のおかげということにしましょう」
「そうだな」
「麻耶が遠くにいって寂しくなりますけど、ふたりでこれからも幸せに暮らしましょうね。これからもよろしくお願いします」
「こちらこそだ」
「じゃあ、帰りましょうか」
「そうだな」
二人揃ってもう一度境内に向かって頭を下げた。
「ところで、神様って本当にいるのかな」
秀太は鳥居をくぐってから、振り返り鳥居を見上げて言った。
「わたしは、いると信じてますよ。だからこうしてお参りしてるんです」
優花も鳥居を見上げた。
「そうだな。いるよな」
「はい。これまでに辛いことはありましたけど、何とか乗りきって、今こうして幸せなのは、きっと神様のおかげですよ。わたしたちが前向きにさえいれば、神様はきっと手を差し伸べてくれます」
「神様の力はやっぱりすごいな」
「神様は万能ですからね」
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