プロローグ

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「また、脱会するバカがいるだと。お前はそんな報告を平気な顔をしてわしにできるな」  テーブルを叩き、報告に来た部長に苛立ちをぶつけた。 「申し訳ございません」  部長は頭を下げていたが、気持ちが入っていない。とりあえず、頭を下げておこうといった感じだ。その態度にわしは苛立ちが倍増した。 「こんな状態になるまで、お前はなぜボーッとしてたんだ」  わしは役立たずの部長に向かって、持っていたペンを投げつけた。報告だけして、何の手も打たない奴は能無しだ。 「しかし、もうどうしようもありません。神様協会は終わりですよ」  部長はそう言いながら、自分の胸に当たり、床に落ちたペンを拾い上げテーブルに置いた。ペンを置いてから、わしの顔を見てニヤリと笑った。  能無しの部下のくせして、生意気な態度だ。こいつはもういらない。すぐにでも神様協会から追放してやる。あとで泣き言を言っても絶対に許さん。 「どうしようもない、神様協会は終わりだと」 「はい、もう限界ですよ。今年に入ってこれで協会を脱会した神様は二百人を超えているんです」 「お前らがしっかりしとらんからだろうが」 「協会長、あなたが人間の幸福度の吸い上げを七十パーセントまで上げてしまったことで、反発する神様が増えてしまったからですよ」 「フン、反発する神様など、さっさと追放してしまえ」 「ですから、ほとんどの神様が反発しています。反発する神様は、追放するまでもなく、ドンドン脱会していってるわけですよ。それが今の現状です」 「脱会してフリーになったところで、うまくいくわけないだろ。浮浪の神になって、泣きをいれてくるにきまっている。しばらく我慢して、泣きをいれてきたやつの中で優秀なやつだけを協会に戻してやればいい。出来の悪いやつはそのまま浮浪の神にでもなればいいんだ。考えてみれば、これは出来の悪いやつを一掃するチャンスかもしれんな」  これで少数精鋭の神様協会にすればいい。目の前のこの部長も新しく優秀なやつに変えればいいんだと、わしは思った。 「そんなうまくいきませんよ。これまでに脱会した神様が浮浪の神になって困っているものは一人もいないんですから」 「これまでに脱会した神様は、フリーでやっていけているというのか。そんな簡単にフリーで成功できるとは思えん。そのうち協会に戻してくれと泣き言をいうやつが出てくるはずだ」 「いえ、ここ最近は、協会を脱会した神様はみんなフリーで成功しています。ですから、これから先もドンドンと協会を脱会する神様が増えていくでしょう。そしてフリーで成功していきます。もうこの流れを止めることは出来ません」 「なぜだ。フリーでやっていくのは難しいはずだ。誰でも彼でも成功できるはずがない」 「それがですね、フリーの神様の世界も今はだいぶ様変わりしているようですよ」 「様変わりしているだと。それはどういうことだ?」 「フリーの神様達で助け合うコミュニティができあがっているそうです」 「助け合うコミュニティだと。なんだそれ?」 「フリーになった神様を支援するコミュニティです。少し前に野々神社にいた習の神という神様がリーダーとなって活動しています。フリーになった神様に人間を幸福にするノウハウを教えたり困った時の相談にものってくれたりするようです。フリーになった神様は、そのおかげで、みんなやっていけてるようです」 「野々神社にいた習の神か?」  そう言えばそんなやつがいたような気がする。 「そうです。神様協会のテストをサボって、あなたが追放した神様ですよ」 「テストをさぼったあいつか? あんなバカにそんな力があるわけないだろ」 「それがですね、習の神には頼りになる師匠がいたようです」  部長は眉を上げて言った。 「頼りになる師匠だと。それは誰だ?」 「それはですね、協会長と同期だった南の神です。もとは南の神がそのコミュニティを作っていたようでして、習の神は南の神に弟子入りして、それを引き継いだそうです」 「また、南の神がからんでいたのか」  南の神の四角い顔が頭に浮かんだ。あいつはいつもわしの邪魔をする。あいつのことを考えただけで反吐が出る。 「南の神は、我々の知らない間にフリーの世界を大きく変えていました」 「それで、今は習の神がリーダーというわけか?」 「はい。習の神がリーダーになって、フリーの神様のコミュニティを一気に大きくしようと神様を集めだしたのです」 「いらぬことばかりしやがって。それで、協会を脱会した神様は習の神の元に集まっているのか?」 「そうですね。あなたがタイミングよく、人間の幸福度の吸い上げ率を七十パーセントに引き上げてしまいましたからね。協会に対して不満を持つ神様が一気に増えたんですよ。そんな神様たちがフリーのコミュニティに流れていっているというわけですよ」 「タイミングよくだと?」  部長の嫌みな言い方に腹が立った。睨みつけてやると、部長は、「あっ」と口を右手でおさえた。 「協会としては、幸福度の吸い上げ率を上げるタイミングが悪すぎましたね」  部長は言い直したが、わしの怒りはおさまらない。 「幸福度の吸い上げ率を上げたタイミングが悪かったと言うのか? わしの責任だというのか」 「いえ、そういうわけではありません。しかし……」 「しかし、何だ」 「しかし、今の協会は限界にきています。実は、私も協会から離れることにしました」 「な、何だと? お前まで裏切るのか? これまでの恩を忘れたのか」 「裏切るつもりはありません。私が思うのは、ここまできてしまった以上、今の協会をなくしてしまい、習の神たちのコミュニティと協力しあうのが賢明だと思っているのです」 「それが裏切りなんだ。わしの代で神様協会を潰すわけにはいかん。わしの面子はどうなる」 「今は面子なんて気にしている場合ではありません。あなたが、習の神のコミュニティと協力する気があるのなら、私もあなたを裏切ることにはならないです。私は神様協会がこれから新たな道に進むことをあなたに提案しているんです」
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