《二》

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「良かろう、ただ条件がある」 「条件、それは何ですか、伯父上」 「帰りに六波羅へ寄れ。そこで告げる」  一刻近く馬を駆けさせると鞍馬山に辿り着いた。各々で轡を取り、登山口に足を踏み入れた。毎日、誰かが枝を落とし、山道を整備しているのだろう。鞍馬山の登山路は平地の路と変わらぬほど歩きやすかった。  眼前に石段が現れた。 「止まれ」 石段の上から大音声が降ってきて木々を揺らした。林の中から鳥が飛び上がった。重盛が清盛の前に出る。  石段の中ほどに大きな人影があった。 「父上、まずは私が進みます」 重盛が言う。清盛はその言葉を無視し、前に進んだ。。慌てて重盛が右横に来た。教経が左に来る。清盛は左を見た。教経が嗤った。石段のすぐ下まで来ると人影の姿が鮮明になった。かなりの大男だった。白い五条袈裟を頭から着け、その太い首からは大振りの数珠がぶら下がっている。岩のような右手には大薙刀が握り立てられていた。左手で鷲掴し、しきりに口に運んでいるものは鳥の肉か。大男は、くちゃ、くちゃ、と音を鳴らし、鳥肉を喰らっている。という事は坊主ではないのか。 「何だ」 大男が鳥肉の欠片を飛ばしながら音声を放ってくる。 「何用があってこの寺にやってきた」 「遮那王なる男に会いに来たのだ」 清盛は言った。大男の巨大な眼がぐるりと一回転する。 「お前、何者だ」 いくらか声を落として大男が訊いてきた。 「平清盛という」  大男の口から大きな肉片が吐き出された。 「なんだと」 大男の声が更に大きくなった。小山のような巨体が立ち上がった。大薙刀の石突きが石段を打つ。 「貴様が本当に清盛なら、ここを通すわけにはいかぬな。石段を上がれるものなら上がってみよ。この薙刀の間合いに入ったら最期、刃身の錆びにしてくれん」
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