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「もう一度言うぞ、景廉殿」
言って清盛は為朝の首を両手で持ち上げた。ずしりとした重みが両の腕に伝わってくる。両手で包んだ為朝の頬にはまだ残熱があった。
「為朝の首を粗略に扱う事はこの清盛が赦さぬ。京に持ち帰り、私の手で埋葬する。もしこの首を粗略に扱えば、その命、失くなるものと心得よ」
景廉が歯を鳴らしながら何度も首を縦に振った。清盛は目顔で景清に合図を送った。景廉の頬を撫でていた太刀がすっと下げられた。景廉が深く息をついた。清盛は為朝の首を抱いて立ち上がった。
「先に胴だけをこの地に埋葬してやろう」
清盛は言った。景清が小さく頷き、為朝の胴体に歩み寄っていく。
「弓はどういたしますか」
景清が言った。清盛は為朝の胴体に眼をやった。半分砂に埋まった剛弓が見えた。清盛は剛弓に歩みよった。景清が為朝の腹に突き立った太刀を引き抜いている。清盛は為朝の首を右脇に抱き込み、砂浜に屈んだ。左手で剛弓を掴み、立ち上がろうとした。岩を持ち上げようとしているかのような、激しい負荷が左手にかかってくる。
清盛は左手を離した。
「この弓は持ち帰る」
言って清盛は立ち上がり、歩き始めた。巨大な胴体を肩に抱えた景清が後ろからついてくる。七人の郎党が鍬を使って砂浜に穴を掘った。景清が深い穴の中に入り、為朝の胴体を横たえた。郎党の一人が町に走った。ほどなく僧侶を連れて戻ってくる。やってきた僧侶が清盛の両手の中にある為朝の首を見、眼を瞪った。
「真の英傑だ」
清盛は言った。
「読経をあげてやってくれ」
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