図書室での出会い

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図書室での出会い

 そして放課後。私は図書室に来ていた。人がほとんどいなくて貸切のようだ。少し寂しい気もするが、私はこのひっそりとした雰囲気が好きだった。そっと目を閉じて深呼吸し、本の匂いを楽しむ。  ──やっぱり図書室は落ち着くわね。  いつも図書室に来た時にやる儀式を終えた私は、新入荷の本を確かめようと、図書委員の人が読書をしながら座っている図書カウンターに行った。今日の当番の人は、銀髪に藍色の瞳をした男子生徒で、ネクタイの色が青色なので二つ上の最上級生だ。今まで図書委員の人とは一度も話したことがなかったが、今日の私は一味違う。この眼鏡があれば、誰と話すのも怖くない。私はにこやかに微笑んで尋ねた。 「今日、新入荷の本があると聞いたのですが、見せていただけますか?」 「……持ってくるから、少し待っていてくれるかな?」  図書委員の人は、普通極まりない顔に少し驚きの表情を浮かべながら返事をして、本を取りに奥の部屋へと入っていった。誰だかよく分からないが、声には聞き覚えがあったので、今までにもあの人が当番の時に貸し出しの手続きをしてもらったことがあったのかもしれない。その時の無口な私と今日の私があまりにも違うので驚かせてしまっていたら申し訳ない。  1分ほど待つと、図書委員の人が十冊くらいの本を抱えて戻ってきた。 「これが新入荷の本だよ。他に人もいないし、ゆっくり見てくれていいから、借りたい本があったら教えて」  図書委員の人はそう言ってカウンターの席に座ると、先ほどまで読んでいた本をまた読み始めた。図書委員になるだけあって、やはり読書が好きなのだろう。読んでいる本も私の好きな作家の著書で、少し親近感がわいた。 「ありがとうございます。ここで見させていただきますね」  私はカウンターの近くの席に腰掛けて、一冊ずつ本を確かめる。空想小説に、世界の御伽話全集、フルカラーの植物図鑑に、偉人の伝記、星座と神話の物語に、古典文学の解説……。興味深い本ばかりで、どれも借りたくなってしまう。でも、図書室で一度に借りられるのは三冊までなので、よく吟味しなければ……。  結局、三十分くらい悩んで、世界の御伽話全集、星座と神話の物語、古典文学の解説の三冊を借りることにした。私は三冊を揃えて抱え、カウンターでまだ読書をしていた図書委員の人に声をかけた。 「長々とすみませんでした。こちらの三冊を借りたいです」 「この三冊だね。これ、僕がリクエストした本なんだ。興味を持ってもらえて嬉しいよ」  図書委員の人が嬉しそうに言う。 「そうだったんですね。先に借りてしまってすみません……」 「いや、僕はもう自分で買って家にあるからいいんだ。とても面白くて、きっと他にも読みたい人がいるだろうと思ってリクエストしたんだよ」 「そうでしたか! 本当に、とても面白そうでつい借りたくなってしまいました。まだ家に読みかけの本もあるのに……」 「そうなの? ちなみに何を読んでいるのか聞いてもいい?」 「『星影の峡谷』の翻訳版です。まだ半分くらいしか読んでないんですけど、本当に心が揺さぶられて……」 「ああ、あれ! 翻訳版が手に入ったなんてラッキーだったね。僕も今、手配しているところなんだよ」 「ふふ、私たち、本の好みが似ていますね」  同じ読書好きで本の好みも似ているせいか、ついつい話が弾んでしまった。趣味の合う人とお喋りするのがこんなにわくわくするだなんて知らなかった。今日だけではなくて、また今度お話ができたらどんなに楽しいだろう。この眼鏡がなかったら知らなかった感情だ。なんとなく、この縁を終わりにしたくないなと思っていたら、図書委員の人が名乗ってくれた。 「僕はエリック。毎週、火曜と木曜に当番をしているから、また気軽に声をかけて」 「私はローラです。図書室にはよく通っているので、また来ますね」 「ああ、楽しみにしてるよ」  そうして、本を借りる手続きをしてもらって、私は図書室を後にした。初めての本好き仲間ができて、満ち足りた気持ちでいっぱいだ。私は自然と足取りが軽くなるのを感じながら、帰りの馬車が待っているだろう停車場へと向かった。
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