コンタクトデビュー

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コンタクトデビュー

 その日の夜、私は居間で寛いでいたお父様に話しかけた。 「お父様、お願いがあるのだけど、お話してもいい?」 「なんだい? 言ってごらん」 「あのね……私、接触(コンタクト)眼鏡が欲しいの。お友達もきっと似合うって言ってくれて……。すごく高いのは知ってるんだけど、ダメかな……?」  お父様は一瞬きょとんとした表情をした後、安心したような笑顔で頷いてくれた。 「もちろん買ってあげるさ! お友達の言うとおりだ。ローラはもっと可愛い格好をしたほうがいい」  お父様は二つ返事で了承してくれ、さっそく翌日街に出かけて接触(コンタクト)眼鏡を注文した。魔法を込める関係で、完成までに少し時間がかかるようだったが、エリックとのデートの数日前には出来上がるとのことだったので安心した。  そして、デートを三日後に控えた木曜の夜。  私は鏡台の前に腰掛けて、出来上がったばかりの接触(コンタクト)眼鏡をつけようと魔法の眼鏡に手をかけた。  ──今までありがとう、魔法の眼鏡さん。私はあなたのおかげで一歩を踏み出せたのよ。そしてこれから、また新しい一歩を踏み出すの。  私は魔法の眼鏡をそっとひと撫でして丁寧に外し、綺麗な飾りのついた小箱にしまった。そして、接触(コンタクト)眼鏡を手に取って、目元へとゆっくり近づける。すると指先から接触(コンタクト)眼鏡が消えて、ぼやけていた視界がクリアになった。どうやらちゃんと装着できたようだ。鏡に映る自分の顔を見ると、慣れ親しんだ丸眼鏡がなくて物足りないような気もするけど、なんだか生まれ変わったような新鮮な気分だ。明るく晴々とした表情になっているようにも感じる。  その後、家族に見せてもみんな褒めてくれたので、コンタクト姿がおかしいということはなさそうだ。  明日、学院に行ったら、バーバラとモニカも褒めてくれるだろうか。不安よりも楽しみな気持ちが大きくて、私は一人クスクスと笑いながらベッドに入った。 ◇◇◇  翌日の朝。学院に着いた私は、自分のクラスの扉の前で深呼吸をしていた。  みんなに挨拶をするのが緊張する……。スーハー。魔法の眼鏡をかけていなくても自然に話せるだろうか。スーハー。でも、いつまでもこんな所で立っている訳にもいかない。スーハー。大丈夫、顔の見え方が変わるだけで、みんな私が知ってる人たちよ。スーハー。  私は扉の取っ手に手をかけ、ガラッと開けると、いつもの笑顔で挨拶をした。 「おはよう!」    クラスメートたちの視線が一斉に集まり、静かに騒めき始めた。 「えっ、グラフトンさん? めちゃくちゃ可愛いんだけど」 「丸眼鏡もダサ可愛かったけど、外してたほうが断然いいな」 「眼鏡外したら美人って反則だろ」 「オレ、デートに誘ってみようかな」  思っていた反応と少し違って戸惑っていると、バーバラの声が響いた。 「男子たち! ローラはエリック先輩とデートの約束をしてるんだから邪魔しないでよね」  すると男子生徒たちの残念そうな声が聞こえた。 「マジか。やっぱあの噂は本当だったんだ」 「エリック先輩じゃ勝ち目ないよな〜」 「仕方ない、オレたちはクラスメートとして仲良くしようぜ」  え、噂って何だろうと思っていると、バーバラとモニカがこちらまで来てくれた。 「ローラ! とても似合ってるよ!」 「ほら、絶対可愛くなると思ってたのよ」  嬉しそうに顔を綻ばせる二人の顔をまじまじと見つめる。本当の顔をこんなにしっかり見るのは初めてだ。  バーバラは少し目尻が上がった勝気そうな顔だけど、さくらんぼのような小さな唇が愛らしい。モニカは垂れ目に口元のほくろが色っぽいけど、包み込むような温かい雰囲気がある。二人のこんな表情は、きっと私だから見せてくれるものだ。そう思うと、言いようのない嬉しさが込み上げてくる。モブ顔じゃなくて、この顔を見ながらお喋りしたい。きっと今、本当の友達になれたんだと感じる。  私は二人に抱きついて言った。 「……ありがとう。二人とも大好きよ!」
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