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『せっかくだから、ナノのオススメのミステリー小説教えてよ』
家に帰ると、ミナトからの返事が届いていた。
私は自室の本棚に並んだミステリー小説とにらめっこした。
親切なミナトに対するお礼になるような、ミナトが楽しんでくれるような、絶対に楽しめる小説はどれだ。
たまにうっかり手に取った小説を読み始めてしまってオススメ探しを忘れてしまいながらも、私は一冊を選んだ。
少しマイナーでミナトが読んだことが無さそうで、私は大好きな一冊。
何度もどんでん返しがあって、犯人の予想を裏切られて、トリックが秀逸で、情景描写が丁寧で、読み返すといくつもの伏線が張られていて。
これなら、喜んでもらえるかもしれない。
メモに題名と作者名を書いてポケットに入れた。
読んだことがないといいな。
『読んだことないな。読んでみる』
良かった。
私はほっと胸を撫でおろした。
気に入ってもらえるだろうか。
返事が来るのを今か今かと待った。
返事が来たのは翌日の夕方だった。
『高校の図書室にも最寄りの図書館にもなくて読めなかった。せっかくオススメしてもらったのにごめん』
私は頭を抱えた。
ミナトが読んだことのない本を選ぼうとしたら、マイナーすぎたんだ!
『本当にごめんなさい! 家の本棚の本から選んだから、図書館にないかもなんて考えてなかった。私の本を貸せたらいいんだけど』
『ナノの本、貸してくれるの? それならポケットに入れてみて。たぶんボールペンみたいに届くと思う』
スマホでメッセージを送り合っているかのように、会話はポンポンと続く。
私はハードカバーのミステリー小説とポケットを見比べた。
『文庫本じゃないから、ポケットに入らないよ……』
残念に思いながら返事を送る。
テンポ良く続いていたやり取りが一度止まったかと思うと、いつもよりも大きめの紙に長文が書かれて送られてきた。
ミナトは、制服を着た状態でブレザーのポケットに物を入れると届くこと、脱いだ制服のポケットでは届かないこと、小さい物なら普通にポケットに入れればいいし、大きい物なら端をポケットに差し込んで届けと祈れば吸い込まれることを教えてくれた。
『ほら、ペットボトルも届いただろ』
ポケットよりも大きいペットボトルがなぜかポケットから出てきたのを思い出して納得した。
早速小説の角をポケットに差し込んで届けと祈った。
しかし、いくら祈っても吸い込まれない。
『小説、届かないよ』
そう書いてポケットに入れたメモも消えない。
1時間ほど待ってみたもののメモは届かず、諦めて制服を脱いだ。
ミナトとの繋がりが切れてしまったのだろうか。
ベッドに横になったものの、その日は眠れなかった。
ミナトとの文通がいつのまにか毎日の楽しみになっていたことに、初めて気がついた。
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