ポケットは想いを届ける

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 それから1週間ほど、その日の出来事や感じたことをポケットを介してお互いに話す日が続いた。  ミナトはどのくらい小説を読み進めたかを毎回の手紙に書き添えてくれた。  感想を聞ける時を楽しみにしながら、送られてきた手紙を読んでいた。  小説を貸した日の翌週の金曜日。  登校すると、片瀬くんの席の周りを大勢の人が取り囲んでいて騒がしかった。  仲の良い女子に何があったのか教えてもらうと、普段は登校した後は教室で友だちと話している片瀬くんが今日は珍しく小説を読んでいると言うのだ。 「片瀬くんって本読むんだね」  感心したように話す女子たち。  確かにサッカー部の片瀬くんには、読書をするイメージはあまりなかったかも。 「何の小説を読んでるの?」 「それがね。ミステリー小説らしいんだけど、みんな読んだことないみたいなんだよね。片瀬くん、なんでそんな有名じゃない本読んでるのかな」  ミステリー小説好きとしての好奇心がくすぐられて、人だかりの隙間から片瀬くんの手元をのぞきこんだ。  片瀬くんが読んでいたのは、私がミナトにオススメした本と同じ本だった。  その日の授業中は、私の頭の中はそんな偶然なんてあるのだろうかという疑問で埋め尽くされていた。  片瀬くんはミナトかもしれない。  以前自分で否定した考えが、より現実味を帯びてむくむくと湧き上がる。  片瀬くんは休み時間になるたびに本を開いていた。
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