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私はボールペンをまじまじと見つめた。
買いたいものを書いた紙がポケットから消えて、実物がポケットから出てきた。
そんな不思議なことが本当に起こるのだろうか。
今度はポケットを穴の開くほど見つめた。
もしかして。
私は閃いた。
このポケットは、紙に書いた物を本物にしてくれる魔法のポケットなのかもしれない。
最近何回かメモをなくしたのは、その予兆だったのかも。
私はいそいそとメモ帳を取り出して、『欲しい物:スマホ』と書いてポケットに入れた。
私だって、まさか本当に魔法のポケットだとは思わない。
親切な誰かが私のポケットの中のメモを見て文房具をポケットに入れてくれたとか、きっとそんなところだ。
でも期待してみるくらいはいいだろう。
本当にスマホがもらえたらラッキーだし。
そんなことを考えながら歩いていた帰り道。
またポケットに何かが入っているような気がした。
ハッとしてポケットに手を入れると、四角い何かが手に当たった。
スマホ……!?
ガバッとポケットの中の物をとりだすと、それはスマホの絵が描かれた厚紙だった。
「何なのよ、これ!」
思わず声が出てしまった。
偽物のスマホじゃないか。期待して損した。
そのまま近くのゴミ箱に捨てようとして、私は手を止めた。
厚紙とはいえ、私がポケットに入れたのはあくまでもスマホと書いたメモ用紙で、スマホの絵が描かれた厚紙ではない。
メモを入れてからこの厚紙を取り出すまでの間は30分ほど。
その間に私に気づかれずに私が着ている制服に何かを入れるなんて……。
できるわけない。
「やっぱり魔法のポケットなんだ!」
大きな声をあげて「魔法」なんて言う高校生を、道ゆく人は変な顔をしながらちらりと見て通り過ぎて行く。
私は周囲の目なんて気にせず、厚紙を握りしめたまま不思議なポケットに感動していた。
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