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◆◇◆◇
「あなたが目を閉じた瞬間、あなたの前から私の存在は消えるの。その瞬間を寂しいって、早く私に会いたいって思ってほしいの」
「えっ」
「なんてね、そんな重いことは言わないよ」
いたずらっ子のように小さく舌をだして七海が戯ける。
「ねえ、三秒間だけ目を閉じて」
指示通りに三秒待ってから目を開けると、七海の姿は目の前になかった。
「七海?」
後ろ側に気配を感じて振り返ると、いきなりキスをされた。
「ほら、あんまり長く目を閉じていると、私はあなたの世界からいなくなっちゃうかもよ」
そして、僕の耳に口を寄せて囁くように言葉を紡いだ。
「だからね、目を閉じても瞼の裏に私の姿が焼き付くくらい、たくさん私を見ていて」
私に会いたいと思ったら、目を閉じれば私に会えるように
だから僕は今日も目を閉じる。
七海に会いたい、そう思ったときはいつも。
七海の頼んでくれておいたおせち料理をテーブルに並べながら呟く。
「今年は、春おせちと夏おせちを用意するから、興味があったら七海もおいでな」
どこからか、うん、という声が聞こえた気がした。
そして僕は、また目を閉じた。
了
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