だから僕は今、目を閉じる

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◆◇◆◇ 「えー、シャンパンなんか買うの?」  スーパーにクリスマス用の食材を買いにきた僕は、七海のそんな発言に驚いた。 「えっ、だってクリスマスだし」 「シャンパン高いじゃない。それに、私はシャンパンより、美味しい日本酒が好きって知っているよね?」 「でも、クリスマスに日本酒はおかしくない?」 「日本酒は除夜の鐘を聞きながら一緒に飲むためよ。そこで最高の日本酒を飲むためにクリスマスは葡萄ジュースで」 「えっ、お年越し、実家に帰らないの?」 「逆に何で帰ると思ってるの?」 「今度のお年越しは特別でしょ。来年の夏には僕たち結婚するんだよ。結婚前、独身最後のお年越し、ご両親と過ごす方がいいよ」 「そんなこと考えてくれてたんだ」  両親を早くに亡くしている僕には経験のない家族団欒のお年越し。でも、来年、七海と結婚すれば、それからはずっと七海とも、授かれば子どもとも過ごせる家族でのお年越しを味わえる。だからこそ、今年の大晦日は七海には実家でお義父さん、お義母さんと過ごしてほしい。 「きっと、お義父さんもお義母さんも喜ぶよ」  七海はちょっと考えてから、分かったと微笑んだ。じゃあ、高い日本酒を飲みながらのお年越しは、来年までお預けだね、と言って微笑んだ。
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