だから僕は今、目を閉じる

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◆◇◆◇ 「今年のお年越しは、一年越しの高い日本酒だよな」  周りの客に聞こえない程度の声量で、誰にと言うわけもなく口に出す。  しかし、日本酒の種類たるや多いこと。そしてどの銘柄もご大層な名前がついていて、どれもこれもが高そうに見える。純米? 吟醸? 大吟醸? 何が違うんだろう。普段は安いハイボールしか飲まないので、日本酒のことはさっぱりわからない。すがるようにスマホを見ると、メールの着信を知らせる青いライトが点滅していた。 《去年の約束を覚えているであろう大地なら、居酒屋さんにいるでしょう。そして、普段はハイボールしか飲まない大地には、どの日本酒を見ても名前に圧倒されてどれを選べばいいのか悩んでいるんじゃないかな》  ご名答。ご推察の通りですよ、七海さん。  そう思い、自嘲しながら続きの文章を読む。 《なんて偉そうに言う私も実はよく知らない(笑)。フルーティーで香りが強いのがいいな。と言うことで、お店の人にアドバイスをもらいましょう》  フルーティー? 日本酒にもそんな表現を使うことを初めて知ったよ。  お店の人に相談して、ちょっと高いけれど香りの強い四合瓶を一本購入した。米の産地がどうやら、水がどうやらとか、丁寧に説明してくれたけれど今ひとつ頭には入ってこなかった。少しずつ日本酒を勉強することを来年の目標に掲げた。  モモ肉の唐揚げに海鮮マリネのサラダ、ちょっと高い日本酒。お年越しには、あとは蕎麦を買わないとな。これだけ聞くと、お年越しはいいけれどお正月大丈夫なのかと不安になるだろうけれど、そこは七海が事前におせち料理を注文してくれているので、今日あたり届くだろう。
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