だから僕は今、目を閉じる

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◆◇◆◇  あと蕎麦を煮るけれど、もう一つくらいお惣菜が欲しいかな。今日届くおせちを大晦日から食べるのは、きっと七海が嫌がるだろう。  肉、魚介、野菜に蕎麦と一通りは揃っている。さて、ここに加えるならなんだろうか。さっき買い物をしたスーパーに立ち戻る。以前は買い物したお店のロゴなどが印刷されたビニールの買い物袋をぶら下げていたので、お店のハシゴをしているのが誰の目にもついたのだけれど、今はエコバッグを持ち歩くようになったのでハシゴがしやすくなった気がする。  スーパーをウロウロとしていると、あるポップが目に止まった。 "寒い夜に最強の味方、今夜は湯豆腐"  なるほど、確かに湯豆腐は温まる。なんなら、注意しないと口の中を火傷するレベルだ。出汁に豆腐とネギと白菜、シイタケでも入れておけば、あとはポン酢で食べるだけ。お手軽で温まるし、よし決定。  豆腐を買い物カゴの中に静かにおいた。  ポテチや煎餅、チョコレートなどのお菓子が大好きな僕にしては優秀な選択。僕だって健康に気づかうようになったんだよ、とスーパーに入る前に届いていた七海からのメールに反論した。 《大晦日は夜更かしするからって、お菓子を買いすぎちゃダメだからね。食べるなとは言わないけれど、食べ過ぎは身体に悪いんだからね》  今のエコバッグの中身を見せて、七海からお褒めの言葉でも来ないものかと思わず笑みが溢れた。  さて、そろそろ帰らないと七海が心配するな。    湯豆腐の材料一式が入り少し重くなったエコバッグを左手に下げ、冷たい空気に耐えながらアパートへの帰り道を急いだ。  アパートのドアの前で一度目を閉じる。このドアの向こうに、もう七海が来ているかもしれない。 会いたいな  ドアを開けると七海が来ているのか、いつもより部屋がほんのりと暖かく感じる。
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