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◆◇◆◇
冬の乾いた空気が、少し離れた場所にある寺院が鳴らす除夜の鐘の音をこの部屋まで届けてくる。
「知ってる七海? 除夜の鐘の除夜って言うのは、大晦日を意味するんだって」
そう言いながら、グラスを二つと今日買ってきた日本酒を料理が乗っているテーブルに置いた。
「大地、本当にありがとう。私は……幸せものだ」
小さく七海の声が聞こえる。
「バカ、幸せなのは僕の方だよ。七海、ありがとうな」
「あとで返品はできないから、もう一度聞くけれど、本当に私でいいの?」
「七海以外、考えられないよ。今もこれからも……」
照明を落としたアパートの部屋。テレビの中の七海は嬉しそうに笑顔で泣いている。
「全く、ウエディングドレス姿でせっかくの化粧が台無しだろうに」
そんな僕の言葉を聞いてかどうなのか、スマホが着信を知らせた。
《もう除夜の鐘が鳴り始めている頃ね。今年もあと数分だね。一緒にお年越しするって約束守れなくってごめんね》
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