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スマホをテーブルの上に置き、僕は改めてテーブルの上を眺めた。
白い小さな小皿に置かれた表面の乾いた唐揚げ、少しクタッとなってきている海鮮マリネのサラダ、すっかり冷め切っている湯豆腐、すっかり汁を吸ってのびきった蕎麦が僕の向かいの席に置かれている。日本酒が注いであったグラスを手に取り、一息にあおった。
僕の目の前にある僕のグラスの日本酒と味が違う気がする。
「しっかりと高級日本酒を堪能してるじゃないか」
そう言ってから、ゆっくりと目を閉じる。昔、ばあちゃんから教えてもらった。亡くなった人は、味ではなく風味を食するんだそうだ。
すっかり風味の無くなっていた七海のグラスの日本酒。おかわりを注ぎながら、さっきまでより近くに七海を感じる。
「二人の初めてのお年越しに」
七海のグラスに僕のグラスを合わせた。チーンと澄んだガラスの音色が乾いた部屋を満たしていく。
「七七日が元日とはな」
七海の体調が急変したのは、夏が明けようかという九月だった。
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