だから僕は今、目を閉じる

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 最初は結婚式や新婚旅行の疲れかと思っていたけれど、日に日にやつれて伏せる日が増えてきて、ある日病院にかかり精密検査を行なった。  そこで告げられたのは、七海の余命……残された時間だった。  二から三ヶ月。突然に聞かされた七海のカウントダウン。残された時間、思い出作りでもと思っていたが、病魔はそれすらも許してはくれなかった。  診断が下りた次の週には、七海は一人で外出もできない状態になった。若さもあって、病気の進行が予想よりも早かったらしい。その後、疼痛や栄養の管理ができなくなり、入院をすることになった。病室の窓から見える桜の木を眺めながら、七海は僕に問いかけた。 「あの桜が満開に咲いたら綺麗だろうね。私にも見られるかな」  一人で座っていることもできなくなり、ベッドの背もたれをあげた状態の七海の瞳は揺れているように見えた。 「桜の木の下でおせちを食べるのもいいかもよ。夏のおせちだけじゃなく、春おせちなんてのも流行ったりしてな」 「大地も洒落たことが言えるようになったね」  そう言って七海は僕に笑顔を見せてくれた。
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