ポケットの中には

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僕は小説家としてデビューすることになった。投稿サイトで連載していた長編小説が、あるコンテストで大賞を取り、書籍化が決定したのだ。自分が書いた小説が書店に並ぶことは、感動だった。 そこから、新聞の連載小説なども依頼され、着々と作家の道を歩んでいった。作家の仕事が軌道に乗って、本職も辞め、専業作家となった。執筆で稼ぐということは、楽しくもあり、怖くもあり、締切に追われることやアイデアが出ずに悩むことはあっても、自分の作家としての腕一つで勝負していくことは、エキサイティングだった。 今までの交友関係は大きく変わった。出版社の人や、プロの作家仲間と飲みに行くことが多くなった。そうするうちに、自分もプロの仲間になったのだという自覚が芽生えるのだった。ただ、そういった世界に入り込んでいくことは、どこか寂しさを感じることでもあった。 専業作家としての生活は、忙しかった。小説を書く上で取材も必要だし、締め切りが近づけば寝る暇もない。そんな忙しい日々の中で、楽しみにしていることが一つあった。僕は、ポケットからスマホを取り出して、小説投稿サイトに足を踏み入れる。もうここで活動しなくなったが、この場所には多くのネット作家が作品を公開している。プロ顔負けの実力派作家もいれば、輝いた未来を感じさせる作家の原石もいる。高校生の時に初めてスマホを持った時と同じように、小説投稿サイトに散りばめられた宝物を読み、僕は興奮するのだった。そして、まだまだ負けてられないぞと、執筆に向き合えるのだった。 僕のポケットの中にはいつでも、宝箱が入っている。
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