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 あまり興味がなさそうだ。  私たちだけでなくあちこちで配属先の話をしているのに、全く気に留めていない様子の梨乃さんには驚かされる。 「まぁ、確かにそうだけど。少なくとも総務部よりは実のある仕事をするんじゃないの?」 「実のある仕事?」 「プロジェクトを成功させる、とかさ」 「……あぁ。どうだろうね」 「私もそういう部署がよかったなぁ。営業とか?」 「ふーん。私はどこでもいいけど」  これ以上話してもきっと平行線のままだ。「……そう」と適当に流して話を切り上げた。  迎えた翌週。  私の気持ちは変わることなく、一向に気は進まない。それでも少し大きめの声で「おはようございます」と挨拶をしながら総務部があるフロアに入った。  『自分が思っている3割増しの声で挨拶をする』——これも研修で教わったこと。新入社員のうちは元気に挨拶できるだけで評価されるらしい。  最も、評価する基準がそのくらいしかない、ということなのだろうけど。  フロア内を見渡すとデスクがずらっと並び、数多くの社員が始業の準備をしている。  50人ほどはいるだろうか。仕切りもなくどこからどこまでが何の部署なのかもよくわからない。  とりあえず近くにいた男性に声を掛けた。 「おはようございます。今日から総務部に配属された『四条杏奈』と申します。どちらに伺えばよろしいでしょうか?」  明らかに面倒くさそうな表情で私を見た男性は、窓側の席に向かって「部長、新入社員ですよ」と声を張り上げた。すると奥の方で50代くらいの男性が立ち上がり、軽く手を上げ「こっちにいいかな」と合図をした。 「……すみません、ありがとうございました」 「いーえ」
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