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「忙しくてそれどころじゃないんだよ」
私が所属する総務部の3月は多忙という言葉では片付けられないほど熾烈だ。入退社が集中する上に異動や転勤があり、それに伴う書類の作成や各方面への手続きが膨大に発生する。
『僕たちはバックアップ部隊だから。従業員の皆さんが快適に働けるかは僕たちに掛かってるんだよ。ただの何でも屋じゃない。責任感と誇りを持って業務に取り組んで欲しいな』
あの人の言葉はいつも私を支えてくれた。11年経った今も、何も変わらず。
「ふーん……長谷川さんを超える人なんて、そこら中に居そうなもんだけど。そこまでいくとすごいよね、執着ぶりが。自己犠牲して尽くして……。変な宗教に入れ込む人と同じなんじゃない? あ。カウンセリングとか受けた方がいいのかもよ」
「あのね、梨乃さんこそトレーニング受けた方がいいと思うよ。何度も言ってるでしょう? そういう『人が傷つくようなこと』はオブラートに包んで言った方がいい、って。私たちの年齢になると後輩を指導する機会も多いんだからさ」
「分かってるよ。もう、杏奈ちゃんにしかこんなこと言ってないから」
ふふっと品よく笑ってお茶を啜っているけど、私はちっとも笑えない。
こう見えて私も傷ついてるんだよね。できたら私にも言わないでもらえると有難いんだけど。
『嫌なことがあっても表に出さないんだよ。ニコッと笑って流す』
あの人の教えを守ってきた。染みついてしまったと言ってもいいかもしれない。
「それに『長谷川さんに関しては、なんとでも言って』って言ったのは杏奈ちゃんだよね」
「はい、そうです。なんとでも言ってください」
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