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 長谷川さん絡みの話は梨乃さん以外にできない。誰にも理解されないだろうし、批判されるに決まっているから。その辺りがわかっているぶん、私はまだ大丈夫だと思う。もちろん梨乃さんも理解はしてくれていないし批判もするけど、梨乃さん自体が「普通」じゃないから、そこまでダメージは受けない。と、結構失礼なことばかりいっているけど、ズバズバと本音を言ってくれる梨乃さんのことは好きだ。 「それにしても、あの次男、また出世したもんだねぇ。社内で女遊びしてロンドンに左遷されたくせに『常務』? 代表の息子は相変わらず特別扱いですか」  うんざりと窓の外のビル群に視線を向けている。そして「長谷川さんが秘書って……秘書が必要なほどの仕事をするのかねぇ」と呆れたように吐き捨てた。 「長谷川さんがやるって言ったんじゃないかな。そういう人だから。庵くんのことが気に掛かって仕方ないんじゃない?」 「杏奈ちゃんにとっても『可愛い弟みたいなもん』なんだっけ? 次男くんは。普通、弟とは寝たりしないんだけどねぇ」 「やめてよ、生々しい」 「でも、そういうところ好きだよ。清廉潔白で叶わない恋をしています、っていうんじゃなくて、欲に正直なところ。そりゃ、体が寂しくなるよねー。セフレの1人や2人いても——」 「いない、いない。庵くんだけだってば。そんな相手」  手を振り乾いた笑いで交わした。そもそも、そんな相手が居るという時点で普通の人から見れば人間性を疑うレベルなのだろう。少なくとも表向きの私を知る人からしたら、そんな相手が居るなんて微塵も思わないはず。  猫を被っているわけでもなければ、自分を偽っているわけでもない。ことさら自分から「そういう相手がいます」と公言する人の方が珍しいと思う。
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