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「まぁ、杏奈ちゃんの場合はぜーんぶ長谷川さんのためだもんね。次男くんと体だけの関係になるのも長谷川さんのため。……歪んだ愛情だねぇ」 「歪んだ愛情って。別に歪んでないと思うけど。敬愛とか、心酔とか、そういう感じでしょう?」 「いいや、そんな生温いもんじゃないよ。愛執……偏愛……その辺りじゃない? とにかく常軌を逸してるね」  そんなに? 好きな人のためになんでもやりたいって思うのはそんなにおかしいことなの? 確かに必死になりすぎてたことは認めるけど……。  納得がいかないところは多々あるが、腕時計を確認した。 「あ、ごめん。私そろそろ行くね」 「未だにその腕時計をしてる杏奈ちゃんを見て、長谷川さんはどう思うんだろうねぇ。重い、ウザい、キモい? 恐怖すら感じるかも。哀れみもあるかなー?」  耳を塞ぎたくなるほど辛辣な予測を語る梨乃さんに背を向け足早にテーブルを離れた。  時計外そうかな。……いや、敢えて着ける。  愛執——愛するものに心がとらわれて離れられないこと。  やっぱり愛執なのかな。 「あれ、アンナさん、ちゃんと休憩とりました?」  自席に戻り仕事を始めていると、昼休憩から戻ってきた後輩に心配されてしまった。 「うん、大丈夫。今日は予定があって6時半過ぎには出たいの」 「そうだったんですね。……彼氏ですかー?」  ニヤッと冷やかしの視線を向けてくる。 「ちがう、ちがう。友だち」 「えー? いつも否定するけど、美人だし可愛いし人当たりもいいし、絶対彼氏いますよね?」 「残念ながらいないんだよねー。寄ってもこないし。そんなに褒めても何も出ないよ?」
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