01

9/82
343人が本棚に入れています
本棚に追加
/242ページ
 真新しいスーツに身を包み本社ビルの正面玄関の自動ドアを抜けた。何人もの人たちがエレベーターホールやエスカレーターに列を成している。ようやくこの人の多さに慣れてきたけど、やっぱり大企業はすごい。このビルだけで1,000人以上が働いているらしい。  これだけ人が多いと人間関係が希薄になるのは自然なことなのだろう。みんな何となく会釈をして黙ってエレベーターを待っている。私もそれに習って集団に加わり、到着したエレベーターに乗り込むと8階で降りた。   「おはようございます」  軽く挨拶をしながら会議室に入ると、あちこちから適当な挨拶が返ってくる。 「おはようございまーす」 「はよーっす」  関東エリアの新入社員、男女合わせて50人ほどが集められたこの会議室の雰囲気にはだいぶ慣れた。3週間も同じ場所で同じメンバーと過ごせば段々と緊張感も薄れてくる。  自分の席にバッグを置きスプリングコートを脱いでいると「おはよう」と声をかけられた。たまたま初日から隣の席だった梨乃さんだ。研修期間中、何かと話す機会が多くすぐに仲良くなった。 「おはよう。ねぇ、配属先聞いた?」  昨日の帰り際、配属先が書かれた辞令を受け取った。他の人たちも同じように配属先を知らされたようだ。 「うん、聞いた。『都市開発事業本部 業務部』だって。よくわかんないけど」  梨乃さんはバッグの中を探りながら適当に返してきた。  納得がいかない。私だけなのだろうか。こんな不本意な配属先なのは。 「えー、いいなぁ。羨ましい。私なんて総務部だよ? なんでかなー。せっかく超大手のミネサキ不動産に入社できたのに、総務なんて……。ただの雑用じゃんねぇ」 「そんなこと私に言われても。業務部っていっても何の仕事するか分からないし」
/242ページ

最初のコメントを投稿しよう!