花園ポエマー

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「春夫の詩は、母親への詩なんだ。  春夫は生まれつきの病気で、今35歳だが小学生くらいの精神年齢だ。そんな春夫を妻はとても愛し育てた。本が好きな春夫にたくさん本を読んであげた。  その妻も10年前に亡くなってしまった。春夫はその死を受け入れられず、母親が戻って来る日を待ちわびながら詩を書くようになった。  母親がいなくなってから春夫とずっと一緒にいられるようと、今の仕事に就いた。大学で働くうちに言葉を交わすようになった文学部の教授に、春夫の詩を見てもらった。教授はいたく気に入り、本にしてくれた。  教授の発案で「ママ」を「君」に変えると、あっという間に人気が出た。 どうだ? 憧れの詩人がこんなオジサンでガッカリしただろう」  想像していたハローとはかけ離れている。でもそれは「ガッカリ」ではない。だって私の頭の中にはハローの詩が駆け巡っている。  私は車のガラスを叩いた。 「ねえ、歩キングフォーってどういう意味?」  ハローはキョトンとした顔をして、でも誇らしげに言った。 「大切なものを探す魔法の言葉なんだ。教授が言ってたから本当だよ」  山田さんがくすくす笑っていた。 「I'm looking forの事だ」  アイムルッキングフォー、探す、アルッキングフォー、歩キングフォー!   やっぱりハローは世界一のポエマーだ。 「ハローありがとう!」  私は叫んだ。  相変わらずの毎日が続いた。でも私の目はいつもハローの姿を歩キングフォー。頭の中では詩が生まれ始めていた。 〈終〉
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