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「お疲れ様でした。あの……」
仕事が終わり帰宅しようとしている山田さんに声をかけた。
「なんだ?」
「うちの会社って、掃除だけじゃなくて草取りとかの仕事もあるんですか?」
「外回りの仕事もある。庭掃除や木の手入れとかな」
やっぱり花畑にいた人はうちの会社の人だったんだ。
「今日花畑に同じ作業着の人がいました。あの人もうちの会社の人だったんですね」
「さあな」
「私がぶつかってしまった文学部の教授と話をしてたみたいなんですが。いえ、そもそも文学部の教授が何で農学部に?」
「さあな」
「その人って誰なんですか? 会えないですか?」
「さあな」
外回りの社員がハローかもしれない。なら外回りの仕事に回してもらえば会えるかもしれない。一緒に働けるかもしれない。
「私を外回りの仕事に……って、山田さん?」
山田さんは既に帰ってしまっていた。色々聞きたかったのに。
『そこにいるのは分かっている
側にいるのは分かっている
なのにこの手は届かない
意地悪
君が
神様が
運命が
伸ばしたこの手をどうしよう
罪なき花を
手折る』
行き場のないもどかしさ。すぐそこにいるかもしれないのに会えない焦燥感。私も花を手折れば少しは気が紛れるだろうか。
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