花園ポエマー

13/16
前へ
/16ページ
次へ
 次の週は薬学部だった。薬学部は農学部の隣なので窓から花畑は見える。私は外を眺めながら掃除機がけをした。花畑には作業着姿の男性がいた。ずっと草取りをしている。後ろ姿なので顔は見えない。彼がハローなのだろうか。すぐにでも飛んで行きたい。  ガツンッ!  壁に掃除機を激突させてしまった。壁に少々黒い汚れができてしまった。恐る恐る振り返る。また怒られる。  しかし山田さんは窓の外をぼんやりと眺めていた。私の失態には気づいていないようだ。慌てて壁を雑巾で拭いた。  山田さんは何を見ているのだろう。山田さんの視線の先を追うと、そこは花畑だった。山田さんは外回りの社員にも目を光らせているのだろうか。  でも、山田さんの目は優しかった。  お昼休みに花畑へ行った。誰もいなかった。うちの社員ならお昼を食べに行っているのだ。いるわけない。  私は車にお弁当を取りに戻った。花畑で食べていれば男性は来るはずだ。その時会える。  お弁当を食べ終えしばしお日様を浴びていた。すると作業着姿の男性がやって来た。  年の頃は30過ぎくらいだろうか。帽子からはみ出した髪ははねていた。何やらブツブツ言いながらうつむき加減で歩いて来る。 「歩キングフォー、歩キングフォー……」  え、歩キングフォー!?   男性は私なんか見えていないかのように花畑に座り込んだ。 「(わら)った。咲った。タンポポ咲った。土から生まれた。おめでとう」  嬉しそうにタンポポに顔を近付けた。  ポエムだ。口からポエムが生れた。 「ハロー?」  私は思わず声を掛けた。
/16ページ

最初のコメントを投稿しよう!

12人が本棚に入れています
本棚に追加