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次の週は薬学部だった。薬学部は農学部の隣なので窓から花畑は見える。私は外を眺めながら掃除機がけをした。花畑には作業着姿の男性がいた。ずっと草取りをしている。後ろ姿なので顔は見えない。彼がハローなのだろうか。すぐにでも飛んで行きたい。
ガツンッ!
壁に掃除機を激突させてしまった。壁に少々黒い汚れができてしまった。恐る恐る振り返る。また怒られる。
しかし山田さんは窓の外をぼんやりと眺めていた。私の失態には気づいていないようだ。慌てて壁を雑巾で拭いた。
山田さんは何を見ているのだろう。山田さんの視線の先を追うと、そこは花畑だった。山田さんは外回りの社員にも目を光らせているのだろうか。
でも、山田さんの目は優しかった。
お昼休みに花畑へ行った。誰もいなかった。うちの社員ならお昼を食べに行っているのだ。いるわけない。
私は車にお弁当を取りに戻った。花畑で食べていれば男性は来るはずだ。その時会える。
お弁当を食べ終えしばしお日様を浴びていた。すると作業着姿の男性がやって来た。
年の頃は30過ぎくらいだろうか。帽子からはみ出した髪ははねていた。何やらブツブツ言いながらうつむき加減で歩いて来る。
「歩キングフォー、歩キングフォー……」
え、歩キングフォー!?
男性は私なんか見えていないかのように花畑に座り込んだ。
「咲った。咲った。タンポポ咲った。土から生まれた。おめでとう」
嬉しそうにタンポポに顔を近付けた。
ポエムだ。口からポエムが生れた。
「ハロー?」
私は思わず声を掛けた。
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