花園ポエマー

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「今週は文学部だ」 「えっ!」  朝礼の後、山田さんに予定を告げられた。  とうとうやって来た。ハローに会える、かもしれない。ハロー本人は無理だとしても、監修した教授には会えるはずだ。  大学に着くと車のガラスに顔を映し髪を整えた。メイクは日焼け止め程度だけど、きっとハローはつけまつ毛した女性よりも健気に働く私みたいな子がいいに決まっている。  そう思いながらも、制服の帽子をいつもより深くかぶった。  文学部だといっても仕事は一緒だ。ひたすら掃除機がけをするのみ。でもチラチラと学生たちを観察した。この中にハローがいるかもしれない。  みんな分厚い本を抱えている。みんな詩を書くのだろうか。ハローみたいに人の心も行動も動かすほどの文章を書くのだろうか。 「おい、早く進め!」 「すみません!」  足が止まっていた。反省しつつ掃除機がけを再開するが、どうしても周りが気になってしまう。  会いたい。見つけたい。 ハローを探しに歩キング フォー ハローに会うまで歩キング フォー  ハローの詩を思い浮かべながら掃除機を進めていると、あった。教授室だ。  吸い込まれるように教授室へと近づく。この扉の向こうにハローを知る人物がいる。私は取手に手を伸ばした。 「そこはいい」 「あっ……」  慌てて手を引っ込めた。 「掃除は廊下と空いてる教室だけだ。教授室は貴重な資料もある。絶対に入るな」 「分かりました」  貴重な資料。ハローの原稿もあるのだろうか。見てみたい。ハローはどんな字を書くのだろう。ちょっと下手くそだけど勢いのある大きな字かな。そんな気がする。  扉が開けばいいのにと、掃除機をかけている間中教授室ばかり気にしていた。でも、一度も開かなかった。
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