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もどかしい日が続いた。文学部にいるのにハローの手がかりが全く掴めない。
そんなある日、教授室の扉が開いた。中からは女性が出てきた。
「すみません!」
思わず声をかけた。女性は不思議そうな顔で私を見た。でも迷惑そうではない。
「文学部の学生さんですか?」
「そうですけど」
「桜庭ハローって知ってますか?」
「詩人の?」
ハローを知っている人に会えた。それだけで胸が熱くなった。色々聞きたかったのに言葉が出てこない。
「ハローのファンなんですか?」
女性の方から聞いてきてくれた。私が大きく頷くと、女性はふっと微笑んだ。
「ハローの詩、いいですよね。私にはとても書けないわ。憧れの存在です」
「じゃあ……」
「でも残念。教授は口が固くてなんにも教えてくれないんです。ここの学生なのか、他の大学生なのか。それとも社会人なのか。本当、どんな人なのかしらね」
女性は「頑張ってください」と小さくお辞儀をして去って行った。頭も良くて感じも良くて可愛い人だった。
あんな人だったらハローに相応しい。それに比べて私は何をやっているんだろう。もっと頑張れたはずだ。ハローに近づきたかったらもっと勉強するべきだった。ちゃんと学生として常盤木大学に入るべきだった。それなのに今の私の格好といったら、薄汚れた可愛さの欠片もない作業着だ。惨めだ。
「おい、何やってるんだ」
山田さんの、いつもよりワントーン低い声がした。
「す、すみません」
「俺たちは仕事に来てるんだ。お喋りしてる暇はない」
「すみません……」
自己嫌悪に次ぐ自己嫌悪。その上学生さえもハローの正体を知らない。
『暗闇の中
君の声が聞こえた
会いたいと願う祈りが聞こえた
だから僕は暗闇から飛び出した
怠惰で安穏とした世界から
飛び出した
でも今君はいない
還れるものなら還りたい
この世界は暗闇以上に真っ暗』
暗いよハロー。真っ暗だよ。
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