デジタル王国の崩壊

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 佐藤少年の両親は、世界に名高いインターネット企業の重役であり、掃いて捨てるほど金があった。彼らは一人息子がコンピューターへ熱を上げているのを誇らしく思い、彼の活動にいくらでも資金を提供した。  偉大な故人をデジタルデータで復活させる計画は、画期的だ。  世界の食糧難や異常気象。資源の枯渇に増えすぎた人口。人類の持つ様々な問題を、温故知新の精神で解決するかもしれない。  数十年が経って中年になった佐藤氏は、巨大コンピューターに十数名の偉人を住まわせることに成功した。大画面のモニターも取りつけ、偉人たちの討論を文字で表記させた。 「あら、フロイトとユングが仲良く精神医療への考えを褒めあっている。しばらくしたら決別して罵り合うけど、今は微笑ましい」 「志賀直哉と太宰治が口喧嘩しているけど、僕にはどちらも正しいように思える。そもそも立っている土俵が、お互い違うんじゃないか? 彼らの話は、いつでも平行線だな」  コンピューターの維持費や、拡張していくメモリーの購入。経年劣化に伴って部品を入れ替えるなど、必要な事は両親にねだれば、いくらでも対応できた。  また、彼らの紹介で一流企業の社長や、大学教授、政府機関の要人などが意見を求めてくる。それに対してこのコンピューターを使って回答することで、それなりの料金をいただく。  佐藤氏は日中つきっきりで、コンピューターの世話をしていた。  夜には高級ワインを片手に、薄暗い部屋に光るモニターを眺めて、暖かくなった情報処理部分を()でる。  あれだけ会いたいと願っていた有名人を、でかい箱のなかで住まわせることができて幸せだった。
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