デジタル王国の崩壊

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**  サトー王が華々しくデジタル王国にやってきて、百年が過ぎた。  当時は創造主の凱旋を、国民総出で盛大に祝った。花火を打ち上げて、豪勢な料理と酒をふるまい、どんちゃん騒ぎ。王がやってきた祝日とした。  しかし、これだけ時がたつと、彼は今や退屈していた。  ようやく出会えた偉人たちは自慢話ばかりで、こちらの話を聞かない。新しく来た住民も各分野で一流なためか、話が嚙み合わない。コンピューターに関わって一生を過ごしたサトー王には、共通の話題や友人ができなかった。 「私が偉人たちに会いたいと願ったように、誰か私に会うことを望む人間がいるはずだ。現世の人たちはデジタル王国に来たいだろうし、私に憧れているはず」  サトー王は行動を始めた。手始めに現実世界の機器をあやつる。  町の監視カメラから、生活する人々の容姿と動作を把握。体重・身長・視力・聴力・持病を病院のデータから吸いあげた。  通話内容、電子メッセージのやり取りから言葉使いと性格を読みこむ。電子マネーの動きから、趣味・趣向を記録。そうだ、彼らのデジタル王国での所持金は、銀行の預金データを引き継ごう。  そうして、一般人を王国に迎え入れることができるデータ処理が終わったら、後は現実世界での体の消去だ。  製薬会社の商品製造機器を乗っ取り、有害物質を飲み水に混ぜこんだ。それも面倒な時は小型爆弾の起動装置を誤発射させた。  デジタル王国の人口は爆発的に増えた。デジタルな世界とリアルな現実が逆転する。サトー王は感慨にふけって、新規の住民に演説をした。  彼らは王の説明を待ち焦がれている。 「夢の中の出来事と思っていた、美しく舞う蝶が本来の貴方だったのです。ここが現実です。全てを手に入れることができますから、欲しいものに苦労することもない。  仕事や恋愛で悩むこともない。飢えも老いも、病気すらない。愛する者との別れもない訳です。理想の生活がある。さあ、好きなだけ生きてください」  これが本当の世界なのだと、招かれた人々は思う。なんという素晴らしい場所だと、サトー王への歓声が上がった。  優秀な機械工はサトー王の話相手とさせるため、側近とした。  ただ王国維持のため、コンピューターのメンテナンスが何とかできるくらいの機械工は申し訳ないが、現実世界に残した。また、その機械工が生きるために必要な農家、漁師等も残した。  悪党は招かなかった。
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