デジタル王国の崩壊

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 きっかけは、2020年代に販売された携帯電話のアプリケーションであった。  その『偉人に会って、訊いてみよう!』は、各界の既に亡くなっている有名人と対話ができるというものだ。携帯電話に文字を入力すると、偉人たちが返信をしてくれる。  科学者がアインシュタインに意見を求め、作曲に行きづまった音楽家がベートーベンに相談をし、コメディアンがチャップリンと意見交換をした。  労せずして儲けようと、三億円事件の犯人とやり取りする者もいた。  携帯電話で手軽につかえ、面白いと飛びつく人が多くいて爆発的なブームのあと、すぐ(すた)れた。  だが、このアプリケーションに夢中になった佐藤少年は違った。自身で類似のプログラムをつくって、『偉人に会って、訊いてみよう!』の失敗点を考えた。結果、彼はデータ不足が原因と考え、生前に資料を多くのこした著名人に徹底した調査をはじめた。  国立国会図書館で著書はもちろん、関連する論文や批判書・専門書・エッセイ等を借りあさってデータ化。残存していれば、過去の映像も探して、発言をコンピューターに打ち込む。  また有名人の現地まで赴いて、生家の風景を写真に撮り、親族への取材を行った。親や子供に孫、親戚など。「あなたに会いたい一心なのです」とぶつぶつ呟く彼の姿は、親族たちに情熱を感じさせた。 「小学生時代の彼が影響を受けた先生はいますか? 先生ではないが、友人の発言が。それは興味深い。その方の話も聞かないと……」 「ええ、公言はいたしません。何ですって、思想家の愛人がいた。日記が残っている。ああ、なんとしても拝見しなくては」  彼らは故人との思い出や発言の意図などを、事細かに語るのだった。
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