光炎の狭間

1/2
1人が本棚に入れています
本棚に追加
/2ページ
冬の夜19時にしては隣のマンションの敷地内が明るく、駐車場はまるでライトアップされているようであった。けたたましきサイレン音を響かせる、梯子を横付けした赤塗の車が数台止まっていた。薄汚れた橙色の服を着た男たちが各自立ち回り、銀色のヘルメットの下から真剣な眼差しを覗かせていた。 しかしながら、マンションのどこからも外部から目視できるような火炎、煙の類はなかった。 自身のマンションに延焼するのではないか、と懸念しないではないが現時点では何もできない。遠くのマンションを望見するような、画面の向こう側を見るような気持ちで以て、目前の様子を眺めていた。路上で屹立した姿勢から、すぐに日常動作に戻った。自宅マンションよエントランス鍵を開けて部屋に帰り、カバンを廊下に投げ込んだ。寝室のドアを開けようとすると、猫が待ち構えて大声で鳴いていた。ひきっぱなしのヨガマットが中央に鎮座していて、これを片付けるのは私しかいない。私は一人暮らしの会社員である。手を洗い、コートのままヨガマットの上でうたた寝していると、引っ越してから半年もたたぬというのに似たような状況に見舞われた事を思い出した。その時も会社からの帰路であった。古びたスナックや屋台のある綺麗ではない小路に、街頭が煌煌と水を滴らせた消防車を照らしていた。雨は消防車の側面を容赦なく打ってクリスタルのように光を集めていた。 工場地帯と繁華街として有名なこの地には、繁多な雑草のように飲食店が多く立ち並び、その一部は住宅地にまで侵襲していた。
/2ページ

最初のコメントを投稿しよう!