第一章 夢は覚めず

10/14
前へ
/52ページ
次へ
「いるかどうか、私にはわかりません」  貴志が屋敷の中にいるかどうかは、警護や召使いたちもわかっているのだが。気遣って言葉を濁したのだ。 (違う国で違う言葉でも、話せるようにしてもらえたのは、便利ね……)  源龍は大陸の大帝国、辰の辰人で、半島の国暁星の言葉はわからないが。世界樹の力によって異なる言語でも話せるようになっていた。 (ご都合主義だなあ)  と、貴志は便利さをありがりつつも、そんな苦笑する思いもあった。 「やめなよ、みっともない」  羅彩女だ。源龍とよくつるむ女侠だ。源龍のわがままをおさえられる数少ない存在でもあった。 「……」  急に静かになって、香澄たちは不思議に思ったが。 「いるんだな」  察した源龍は扉を叩いて、 「打龍鞭でぶちやぶるぞ!」  などと、物騒なことを言う。  いつもながら滅茶苦茶だ、と思った時。扉が開いて。  剣のきっさきが源龍の鼻先に突き付けられた。  香澄の七星剣だ。素早い動きで扉までゆき、素早く剣を抜き、開けると同時に突き付けたのだ。 「だめよ源龍、お行儀よくしましょうね」  剣を突き付けながら、香澄はにっこり、笑顔で言った。 「なんだよ、香澄もいたのか」  それどころか、奥を覗けばあの見覚えのある金髪碧眼の女性がいる。  何かが頭の中でひらめいた。 「お前らがそろっているということは、何か面白そうなことがあるってことだな?」  源龍は不敵な笑みを見せた。なかなか察しがいいものだった。香澄に剣を突き付けられても、屁とも思ってない感じで。 「またなんかあるの?」  羅彩女も察して苦笑しながら言う。 「こほん!」  警護兵が短槍を携え、咳払いをして存在感を示す。その時に香澄はさっと剣を鞘にしまう。 「わかったわかった」  源龍は一旦自室に戻る、羅彩女は、 「まだまだ子供だねえ」  とその背中を見送り、貴志の部屋の中に入ってゆき。マリーとお久しぶりと挨拶をかわし、話を聞いた。 「やっぱりまたなんかあったわけね」 「ええ、はい」 「まあ、こつこつ働くより、獲る方が手っ取り早いからねえ。でも貴志からしたら、長い目で見たら……、ってやつでしょ」 「お察しの通りです」 「学ばずは卑し」  最後のしめに香澄が一番きついことを言う。 「なりません、あなたは貴志さまのお部屋に入れるわけにはいきません!」 「取って食うわけじゃねえし、いいじゃねえかよ」 「ならぬものはなりませぬ!」 「なんだよ、貴志とおんなじ石頭だな!」 「そのように貴志さまを侮辱するなら、なおさら入れるわけにはいきません!」
/52ページ

最初のコメントを投稿しよう!

0人が本棚に入れています
本棚に追加