第一章 夢は覚めず

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 貴志(フィチ)が教えると言っても興味ないと断ってきていた。学は必要なものだが、無理強いもかえってよくないので、貴志も無理強いはしなかった。  そんな源龍(げんりゅう)も、警護の兵と喧嘩をする一方、他の男の召使い衆と酒を酌み交わし談笑することもしばしばあり。けっこうここでの生活を満喫しているようだった。  それでも、出てゆくと言ってきたのだから、本当にひとっところにいられない風来坊な性格のようだ。  あくびした源龍に視線が集まる。 「なんだよ」  とがめるのではなく、なんだか微笑ましそうに笑みを見せているのが、なんだかおかしなくすぐったさを覚えてしまう。  香澄(こうちょう)や貴志たちは、源龍のこともひとりの人間として尊重していた。かつての障魔との戦いにおいても、戦いの経験が豊富なのをおおいに生かし、その貢献も大なりであったことから、その性根もそれなりにいいのも皆知っている。  香澄も満面の笑みを見せている。 「でも、本当に、どうやって向こうに行くんですか?」  貴志はマリーに問うた。 「そうですねえ。世界樹がそうしてくれるのでは、と……」 「ううむ。でも、急がないといけないことでしょうに」 「それか、鬼の側から何かしらの妨害があるのかと」 「妨害?」 「鬼は戦いには長けています。学はなくとも悪知恵が働くのです」 「はあ、たちが悪いねえ」  羅彩女(らさいにょ)が嘆息する。世間の最下層で生きて、そういった厄介な、才能ある畜生もずいぶんと見てきたもので、実感があった。源龍も同じくで、頭を使うちんぴらの厄介さはよく心得ていた。 「オレが一番ムカつく手合いだな。戦でも仲間を平気で裏切ったりしたもんだ……」  源龍は続ける。  裏切りといっても敵側に着くことばかりではない。手柄を横取りするために仲間を殺したり、仲間が得た報酬を強奪し、そのために殺すこともいとわぬと。敵よりも仲間に危害を加え利益を得ることに熱心な者もまた多く。そのための悪知恵もよく働いたものだった。  実際羅彩女も源龍も何度も厄介な思いをさせられたものだった。 「仲間を……」  戦を知らぬ貴志は絶句した。 「戦なんてよ、所詮は殺し合いだからな、ぶんどるためのな。そこに敵も仲間もねえ。ただ、獲るために殺す。それだけだ」  源龍は忌々しそうに言いながら続けた。 「おめえの親父さんと王様はよくやってるぜ。まあ退屈はするけどな。戦なんかするよりよっぽどいい」 「あんたがそんなこと言うなんてねえ……」  おめえの親父とは、貴志の父で宰相の李太定(イ・テチョン)のことで。王様とは、暁星(ヒョスン)を治める雄王(ウンワン)のことだ。
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