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貴志(フィチ)が教えると言っても興味ないと断ってきていた。学は必要なものだが、無理強いもかえってよくないので、貴志も無理強いはしなかった。
そんな源龍(げんりゅう)も、警護の兵と喧嘩をする一方、他の男の召使い衆と酒を酌み交わし談笑することもしばしばあり。けっこうここでの生活を満喫しているようだった。
それでも、出てゆくと言ってきたのだから、本当にひとっところにいられない風来坊な性格のようだ。
あくびした源龍に視線が集まる。
「なんだよ」
とがめるのではなく、なんだか微笑ましそうに笑みを見せているのが、なんだかおかしなくすぐったさを覚えてしまう。
香澄(こうちょう)や貴志たちは、源龍のこともひとりの人間として尊重していた。かつての障魔との戦いにおいても、戦いの経験が豊富なのをおおいに生かし、その貢献も大なりであったことから、その性根もそれなりにいいのも皆知っている。
香澄も満面の笑みを見せている。
「でも、本当に、どうやって向こうに行くんですか?」
貴志はマリーに問うた。
「そうですねえ。世界樹がそうしてくれるのでは、と……」
「ううむ。でも、急がないといけないことでしょうに」
「それか、鬼の側から何かしらの妨害があるのかと」
「妨害?」
「鬼は戦いには長けています。学はなくとも悪知恵が働くのです」
「はあ、たちが悪いねえ」
羅彩女(らさいにょ)が嘆息する。世間の最下層で生きて、そういった厄介な、才能ある畜生もずいぶんと見てきたもので、実感があった。源龍も同じくで、頭を使うちんぴらの厄介さはよく心得ていた。
「オレが一番ムカつく手合いだな。戦でも仲間を平気で裏切ったりしたもんだ……」
源龍は続ける。
裏切りといっても敵側に着くことばかりではない。手柄を横取りするために仲間を殺したり、仲間が得た報酬を強奪し、そのために殺すこともいとわぬと。敵よりも仲間に危害を加え利益を得ることに熱心な者もまた多く。そのための悪知恵もよく働いたものだった。
実際羅彩女も源龍も何度も厄介な思いをさせられたものだった。
「仲間を……」
戦を知らぬ貴志は絶句した。
「戦なんてよ、所詮は殺し合いだからな、ぶんどるためのな。そこに敵も仲間もねえ。ただ、獲るために殺す。それだけだ」
源龍は忌々しそうに言いながら続けた。
「おめえの親父さんと王様はよくやってるぜ。まあ退屈はするけどな。戦なんかするよりよっぽどいい」
「あんたがそんなこと言うなんてねえ……」
おめえの親父とは、貴志の父で宰相の李太定(イ・テチョン)のことで。王様とは、暁星(ヒョスン)を治める雄王(ウンワン)のことだ。
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