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「死にたいやつからかかってこい!」
ぶうんとうなる硬鞭(こうべん)。
ここは戦場。風雲空を覆う。
「うおおお――ッ!!」
硬鞭のうなりを合図にするように、空(くう)が揺れるほどの雄叫びがあがった。
赤い肌に赤い髪、紅い眼、頭から角を生やした異形のものたちが、大口を開けて叫びながら駆け出す。その大口から、鋭い牙が見えた。
その太い手には、棘のある太い鋼の武具。これに打たれたらひとたまりもなく肉体は砕かれる。
その数は、すぐには数えきれないが、百はあるかもしれなかった。
「おもしれえツラしやがって!」
硬鞭を掲げた黒い鎧の戦士は不敵な笑みを浮かべ、駆け出す。
「君ひとりじゃ無理だよ!」
と呼びかける声。黒き戦士とともに駆け出す書生風の青年。右手に短い槍を握り締めている。
さらに、
「手柄を独り占めさせないわ」
と言う柔らかな声。紫の衣をまとった少女だった。その手に握る剣の剣身には、北斗七星と同じ配列の七つの紫の珠がうめられている。
「まったくせっかちなんだから」
今度は赤い鎧をまとった女戦士。長い黒髪をなびかせて駆け。その手には、軟鞭(なんべん)。
この、たった四人は、百はあろうかという鬼の軍勢に向かってゆき。
ぶつかった。
鬼の咆哮すさまじく、その手の棘のある鉄の塊、金砕棒(かなさいぼう)もうなりをあげ。四人を粉々に砕こうと迫る。
しかし、四人はそれらをたくみにかわしながら、それぞれの武具がうなり、ひらめかせる。
「ぐおお――ッ!」
咆哮は断末魔の叫びと変われば。鬼はまるで熱した鉄板に落ちた水滴のように、じゅわっと消えてゆく。
鬼との戦い。
四人、源龍(げんりゅう)、李貴志(イ・フィチ)、香澄(こうちょう)、羅彩女(らさいにょ)は鬼どもをものともせずに果敢な戦いを見せた。
――時は遡る。
かつて、世を混迷に陥れんとする、障魔との戦いに臨み。
これに勝利した。
四人のほか、さまざまな仲間たちと力を合わせて。
戦い済んで、草原にそびえる大樹こと、世界樹の下で、仲間たちと思い思いにくつろいで。疲れをいやした。
「そんじゃあ、そろそろ行かなきゃね」
「今まで、ありがとうございました」
「では、私も……」
「じゃあねえ、元気でねえ~」
それぞれ思い思いに挨拶し、惜別を覚えつつ、それぞれの世界へと、還っていった。
目を閉じ。
次に目を開けば……。
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