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四人は、半島の国、暁星(ヒョスン)の都、漢星(ハンスン)にある李貴志の邸宅の庭にたたずんでいた。
他の仲間たちはいない。
みんな、それぞれの、いるべき時、ところへと還っていた。
「貴志おぼっちゃまに、食客のみなさま、どうしたのですか?」
庭で掃除をしていた召使いたちは、ぽかんとしながら四人を見やった。
(そうか。他の人たちは、忘れさせられたんだ)
様々な出来事があった。身近な人の死もあった。それらも、戦い済んで、忘却の彼方へと。世界樹の力によって。
「いやあ、その、僕ら、気晴らしに屋敷のあちこちをみんなでうろついてたんだ」
「わざとらしいなあ、おい」
「うふふ」
「まあ、そういうこったねえ」
「はあ……」
召使いはぽかんとしてから、愛想笑いを浮かべ。そうですか、と応えた。
「掃除の邪魔になっちゃうね、ごめんなさい。すぐ行くよ」
貴志はそう言い。四人は早歩きで屋敷の中へと戻っていった。
そういえば、四人とも平服だ。少し前まで、源龍と羅彩女は鎧をまとっていて、それぞれ武具を持ち戦っていたのが。
これも世界樹の力か。
戦い済んでからの世界では、貴志は李家の五男坊なのは変わらないが。源龍と香澄に羅彩女の3人は、食客として李家に居候をしている、という風になっているようだ。
屋敷の中へと戻れば。貴志はもちろんのこと、食客にも個室が割り当てられているという厚遇ぶりである。
部屋は二階にあった。
しかし何の故あって宰相家に居候しているのか。
「……」
貴志は、ふと、何かが頭の中で引っ掛かっているような思いに駆られた。何かを忘れて、もう少しで思い出せそうな、あの、頭の中で何かがひっかかる、あの感じ。
(なんだろう)
「まあいいや、オレは昼寝でもするさ」
「あたしも」
「私は読書がしたいわ」
香澄は貴志に頼んで、何か面白そうな本を選んで持ってきてほしいとお願いする。
「わかった。まあ、僕も自分の部屋で休むよ」
なんだったっけ? と思いつつ。自室に入って。適当な本を探して、香澄の部屋に持っていってやった。
それから、数日はのんびり暮らした。
とはいえ、じっとしていられない源龍は何かにつけて得物の硬鞭、打龍鞭(だりゅうべん)を振り回し、鍛錬(?)に余念なく。
同じくじっとしていられない羅彩女も、もらった饅頭をぱくつきながら源龍の鍛錬を見物し。たまに自分も身体を動かした。
香澄は貴志に本をわけてもらって、読書三昧の日々。
貴志は、父とともに王宮に出仕し、公人としての役目を果たしていた。
時に、海鮮チゲなど、美味しい食事に舌鼓を打ち。
のんびりながらも、それなりに楽しい日々を送った。
「旅の途中、猛獣に襲われたのをあの方々が助けてくれなんだら、お前はいなかったのだな」
ある時、ふと、父はそんなことを感慨深げに言った。
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