第一章 夢は覚めず

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 四人は、半島の国、暁星(ヒョスン)の都、漢星(ハンスン)にある李貴志の邸宅の庭にたたずんでいた。  他の仲間たちはいない。  みんな、それぞれの、いるべき時、ところへと還っていた。 「貴志おぼっちゃまに、食客のみなさま、どうしたのですか?」  庭で掃除をしていた召使いたちは、ぽかんとしながら四人を見やった。 (そうか。他の人たちは、忘れさせられたんだ)  様々な出来事があった。身近な人の死もあった。それらも、戦い済んで、忘却の彼方へと。世界樹の力によって。 「いやあ、その、僕ら、気晴らしに屋敷のあちこちをみんなでうろついてたんだ」 「わざとらしいなあ、おい」 「うふふ」 「まあ、そういうこったねえ」 「はあ……」  召使いはぽかんとしてから、愛想笑いを浮かべ。そうですか、と応えた。 「掃除の邪魔になっちゃうね、ごめんなさい。すぐ行くよ」  貴志はそう言い。四人は早歩きで屋敷の中へと戻っていった。  そういえば、四人とも平服だ。少し前まで、源龍と羅彩女は鎧をまとっていて、それぞれ武具を持ち戦っていたのが。  これも世界樹の力か。  戦い済んでからの世界では、貴志は李家の五男坊なのは変わらないが。源龍と香澄に羅彩女の3人は、食客として李家に居候をしている、という風になっているようだ。  屋敷の中へと戻れば。貴志はもちろんのこと、食客にも個室が割り当てられているという厚遇ぶりである。  部屋は二階にあった。  しかし何の故あって宰相家に居候しているのか。 「……」  貴志は、ふと、何かが頭の中で引っ掛かっているような思いに駆られた。何かを忘れて、もう少しで思い出せそうな、あの、頭の中で何かがひっかかる、あの感じ。 (なんだろう) 「まあいいや、オレは昼寝でもするさ」 「あたしも」 「私は読書がしたいわ」  香澄は貴志に頼んで、何か面白そうな本を選んで持ってきてほしいとお願いする。 「わかった。まあ、僕も自分の部屋で休むよ」  なんだったっけ? と思いつつ。自室に入って。適当な本を探して、香澄の部屋に持っていってやった。  それから、数日はのんびり暮らした。  とはいえ、じっとしていられない源龍は何かにつけて得物の硬鞭、打龍鞭(だりゅうべん)を振り回し、鍛錬(?)に余念なく。  同じくじっとしていられない羅彩女も、もらった饅頭をぱくつきながら源龍の鍛錬を見物し。たまに自分も身体を動かした。  香澄は貴志に本をわけてもらって、読書三昧の日々。  貴志は、父とともに王宮に出仕し、公人としての役目を果たしていた。  時に、海鮮チゲなど、美味しい食事に舌鼓を打ち。  のんびりながらも、それなりに楽しい日々を送った。 「旅の途中、猛獣に襲われたのをあの方々が助けてくれなんだら、お前はいなかったのだな」  ある時、ふと、父はそんなことを感慨深げに言った。
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