第一章 夢は覚めず

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 さまざまな障魔との戦いに駆り出されたものだった。  それがやっと終わったと思っていたのだが……。  立ち止まり、世界樹を見上げる子供たちの中のひとりが、とつぜん浮き上がった。その子の目や髪、肌の色は貴志と同じだった。が、突然肌も髪も赤くなり、眼は印象的なほど紅くなった。  さらに、脳天から鋭い角が生えたではないか。 「だめだよ!」  もうひとりの子供も浮き上がった。 「コヒョだ」  マリーはうなずいた。先に浮き上がった子供は知らないが、続いて浮き上がった子供は知っている。その子供もフィチと同じ目、髪、肌の色で、こちらは変わらなかった。 「ひゃあ~、どうして鬼(おに)にもどっちゃうのさ~」  褐色の肌で目も髪も黒い、リオンが駆け寄って。頭を抱えながら浮き上がった子供を見上げていた。 「ならぬ!」  なにか、耳に聞こえるというより、心に響く声がした。世界樹の声だ。優しげな中に威厳も備えていた。  しかし、先に浮き上がった、鬼と言われた子供は何も言わず。隼のような速さで空高く舞い上がり。そのまま姿を消した。 「まあ、大変……」  子供たちにまじり、唯一の大人の、マリーも憂いを含んだ面持ちで空を見上げた。 「大変だ、大変だ!」  コヒョとリオンに、子供たちは騒ぎ出し。それを大人のマリーがなだめて。ようやく落ち着きを取り戻した。 「連れ戻されたんだ!」   コヒョは続けて言う。 「せっかく子供に戻って、のんびり暮らせていたのに。他のもっと悪い鬼の念が、ここまで届いちゃったんだ!」 「悪い念って、本当に手強いねえ……」  リオンは空を見上げながら恨めしげに言う。  この世界樹のいる草原の世界も、危機にさらされたが。それはこれからも繰り返されるのかと思うと、やりきれない思いだった。 「憂えてばかりいてもしかたない。香澄たちにこのことを伝えなきゃ!」 「……私が行って伝えるわ」 「うん、頼んだよ、マリー」  最後の頼む声は世界樹の声だった。世界樹の声は、老若男女いずれの声にも聞こえる不思議な声だった。  こうして、世界樹の力で時空の通り道をつくって、香澄に会いに来た、はずなのだが。  香澄の通心紙ともつながらず。通り道も少しずれて貴志の部屋につながってしまった。という次第。 「それなら、すぐに阿澄(香「澄ちゃん」、阿は「ちゃん」の意)と会いましょう。隣の部屋です」  部屋を出ようとしたとき、扉を優しくたたく音。  開けてみれば、香澄がそこにいて。素早く入った。 「大丈夫。誰にも見られていないわ」
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