第一章 夢は覚めず

9/14
前へ
/52ページ
次へ
 それと同じように、あの鬼も子供となって世界樹の世界にいたのだが。 「かわいそうなオロン……」  マリーはぽそっと言った。あの子供の名はオロンだとわかった。 「鬼の邪気は執念深く、オロンを探し求めて、とうとう見つけてしまったのね」 「邪気が世界樹の力をしのぐ。そのたびに、阿澄は戦っていたのかい?」 「そうね。でもひとりではどうしても限界があるから……。前の時は仲間に恵まれたわ」 「……」  貴志は何とも言えなかった。完全に不同意の成り行きだったが。それは邪気と戦い、これを鎮めるための仲間を求めていたからだったのか。  それにしても、ちょっと、よくない出会い方だったような気がとてもするのだが……。  ともあれ、話はわかった。では、その異なる世界にどうやって行くのか。 「本を開いて」 「え?」 「本を開いて、それを通じて行くのよ」 「本を通じて!?」  それこそまさにおとぎ話のような話だ。おとぎ話の世界の国にゆくのに、それを記した本を通してゆくなんて。  そりゃあ、今までいろいろと信じがたいことがいっぱいあって。不思議なことには遭い慣れた、と思ったが。やはり慣れることはなさそうだ。 「本を通じて行くったって。どうやって!?」 「貴志、いるか!?」  扉をどんどんと無遠慮に叩く音がする。源龍だ。 「稽古の相手になってくれよ」  源龍はじっとしていられない性格で、よく庭で得物の硬鞭・打龍鞭を振り回しているが。ひとり素振りで満足する性格でもなく。よく貴志に相手になれとせがんでいた。  貴志は口を閉ざし、敢えて居留守を決め込んだ。香澄とマリーもそれに付き合い、目配せし合って、静かにした。  源龍は得物の打龍鞭を肩に置いている。鍛え抜かれた鋼の打撃武器で、鍔はないが、刀剣と同じような柄がある。形は六角形で細かいことに各面に龍の彫刻がほどこされている。  この得物を相棒として、障魔と戦ったものだったし。源龍も相当なお気に入りだった。  そんな得物を扱う源龍も、鍛え抜かれた肉体の持ち主だった。稽古のために半袖の簡素な服装で、その身体つきのごっつさが強調されていた。 「困ります、武具は預けてもらわないと」  警護の兵が苦言を呈す。武具は兵に預ける決まりだったが、源龍はなかなか守ろうとせず、他の者に説かれてしぶしぶ預けるのだった。  外で素振りをするからと、預けたのを返してもらっていたのだが。貴志を呼ぶために持ったまま屋敷の中に入ったのだった。 「おい、貴志はいないのかよ」
/52ページ

最初のコメントを投稿しよう!

0人が本棚に入れています
本棚に追加